ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.105 )
日時: 2021/05/02 08:00
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: jBbC/kU.)

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「それに、紙は木から作られた、森の産物。精霊も、怒ってる」
 おれは精霊を『視る』ことはできない。『感じる』ことだけはできるけど。
 日向には、それができる。実際にすることはあまりないみたいだけど、会話(念話)のようなものも、しようと思えばできるらしい。
「ご、ごめんなさい!」
 女の子は、がばっと頭を下げた。
 日向は相変わらずの無表情で、冷たく言い放つ。
「私に謝られても、困る」
 全く困ったようすは見受けられない声。
 ますます、女の子は赤くなった。
 それを日向は無視して、とんっと小さな音だけたてて、大量の本を机に置いた。
 その本の題名を目にしても、顔色ひとつ変えない。本当に、すごいと思う。
 おれには、無理だ。

『呪われた民の行方』
『追いやられた白の民』
『滅ぼされた悪の根元』

 その中のほとんどが、〈呪われた民〉についてのものだった。
 おれはそれらを見た瞬間に、さっと顔色を変えたのを、自覚した。
「あっ、ありがとうございます!」
 女の子は気づいていなかったようで、と言うよりかは、顔を真っ赤にしてうつむいているのでおれが見えていないのだろう。かろうじて、という雰囲気でお礼を言った。
「別に」
 日向は淡々と告げる。
「わたし! ゼノイダ・パルファノエです!」
 パルファノエさんは、唐突に叫んだ。
「は?」
 訝しげな、日向の声。見ると、二人は視線を交わしていた。一方はなにやら熱がこもり、一方は対照的に冷えている。
「い、いえ、その、名乗らないのは失礼かと……、あっその! 決して花園先輩や笹木野先輩が失礼とかそういうことでは!
 あっ! あああまた誤解を招くような言い方を」
 一人で問答を繰り返すパルファノエさんを、日向は冷ややかに見つめていた。

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