ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.106 )
日時: 2021/05/02 08:01
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: jBbC/kU.)

 5

「なん」
 日向が呟いた、いや、呟こうとした。
 パルファノエさんは一種のパニック状態に陥っていて、それに気づいていない。
「どうした?」
 気になったので、おれは日向に尋ねた。
 少し間を空け、日向は言う。
「別に」
 えー。
 知りたいと、顔に出ていたのか、日向はおれの目をじっと見つめた。
 真顔で見つめられるのには、やっぱり、慣れない。
「私の」

 確信犯か、天然か。

 どっちかはわからないけど、少し頬を赤くしたおれを無視して、日向は言った。
「名前を、知っていたから」
 なんで知っているのか。
 そう、言おうとしたのか。
 おれの心を読んだかのようなタイミングと言葉で、日向は言葉を続ける。
「でも、興味ないから」
 訊くのをやめた、と。
「リュウは名声、私は悪名。
 どちらも、形はどうあれ世界に認知されている」
「そんなことっ!」

 ちがう。悪名なんて、そんな。日向の名前は、決して悪名なんかじゃない。

「日向の名前は、悪名に『された』んだ!」

《白眼の親殺し》の一件で、日向は全世界の晒し者にされた。

 記者に野次馬、大量の奴らが、日向の個人情報を洗いだし、絞りだし、それまでの過去から家族構成から、日向に関するほとんど全ての情報が、無償(記者の場合は職務なので新聞等の料金はかかったが)で世界に公開された。
 そのおかげで日向と巡り会えたということが、なおさら強く、おれに嫌悪感を植え付けていた。
 だからおれは、いままでの日向の大半を知っている。その代わりに、おれは自分の個人情報を日向に教えた。日向はそれを拒んだけど、どうしても、知ってほしかった。
「リュウ、ここ、図書館」
「わかってる!」
 怒鳴ったあと、はっと我に返った。
 こんなの、八つ当たりだ。
 絶対しないように、気をつけていたのに。
 頭が真っ白になって。
 自分が嫌になって。

 日向の顔も見ないで、おれはその場を駆け出した。

 6 >>107