ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.109 )
日時: 2022/03/02 07:52
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: f3ScG69M)

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 一瞬、一秒、一分、一時間、一日……。
 時間が流れたという事実だけが、実感ではなく知識としてわかる。
 それがどのくらいのものなのかまでは、わからないけれど。
 おれの体は、いま、どこにあるんだろう。なにをしているんだろう。

 日向は、どう思っているんだろう。
 怒っていないのは、知っている。わかっているんじゃなくて、知っているんだ。

 いつも、そうだから。

 日向には感情が少ない。
 日向に感情をもたらすのは、いつもおれたちだ。
 ただし、それはおれたちに向けられたものに対して、おれたちが感じたものに対して生じる感情。
 自分自身に関するものには、決して感情を抱かない。

 そう、誰もが思っている。誰よりも近くにいるが故に、蘭もスナタもそう捉えているし、日向本人すらも、そう思っている。

 でも違う。日向は、自分の感情に気づいていないんだ。
 気づけないから、その感情を直に受ける。
 それがたとえ、ストレスであっても。

 日向は誰よりも不器用だ。それ自体には、蘭もスナタもわかっている。
 だけど、おれほどには心配していない。おれが心配しすぎなのも、否めないけど。
 でも、それだけじゃない。あの二人は、日向に近すぎる。
 近すぎるから、理解しすぎているから、全体像を捉えられない。気にしないと見えないほどの細かい部分が、視界から漏れているんだ。
 おれは違う。おれは、あの二人とは、明らかな違いがある。
 だから、こんな感情が生まれるんだろう。

 友情なんてものじゃない。

 恋愛感情でもない。

 憧れ、とも、なにか違う。

 元々は、恩義のようなものだったはずだ。

 一直線上にあるようで、全く別次元に存在するこの感情。

 言葉のない、他の人のなかにはその概念すらない、この感情。

 言い表すことなど出来ない、大きすぎるこの気持ち。

 けれど、言い表すとするならば。唯一言い表すとするならば、この、なによりも壮大で、なによりも曖昧な、この言葉。

 日向、日向。
 おれは。


 おれは、日向を、愛してる。

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