ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.117 )
- 日時: 2022/06/08 18:15
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: gf8XCp7W)
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「番人さん、番人さん」
おれは眠っていた番人さんを起こした。かなり気持ち良さそうな寝顔だったけど、おれも帰りたいから。
「ん? ああ、笹木野君か。今日も閲覧かい? えっと、鍵はどこだっけな」
番人さんは、がさごそと受付台の内側を探り始めた。
古代書は貴重なので、貸し出しなんか出来ない。閲覧以外にこのフロアに用事なんかないだろう。
じゃなくて。
「番人さん、逆です。閲覧が終わったので、鍵を返しに来たんです」
番人さんが持つ鍵を除けば、閲覧者用の鍵は一つしかない。無いものを探している番人さんに声をかけると、番人さんは笑った。
「フォッフォッフォッ、閲覧は終わったのか。目当ての本は見つかったかい?」
自分がボケていたことには一切触れず、何事もなかったかのように、番人さんは言った。
「いえ、本来の目的は達成出来ませんでした」
わざわざ指摘することでもない、というか、これはいつものことなので、おれもスルーした。
「ですが、面白いものを見つけました。二つの神話伝が揃っているなんて、珍しいですね」
国ごと、地域ごとにある図書館には、それぞれ一つの神話伝(もとの神話伝を複製・簡略化したもの)しかない。
それは、宗教間の対立を防ぐためだ。宗教は大体国や地域でわかれているので、二つの神話伝を揃えてしまうと、住民の大多数から批判されてしまうのだ。
しかし、あらゆる文化をもつ民族が集まったこのバケガクでは、二つの神話伝が揃っていた。いや、揃えることが出来た、というのが正解か。
大陸フィフスでは、再生と破滅を司るテネヴィウス神を崇めるセディウム教が主流だ。
よって、キメラセル教関連の書物は、なかなか手に入らなかった。
「神話に興味があるのかい? あまり君は、そういったものに関心があるようには見えないが」
おれは苦笑した。
「確かに、おれはどちらの教えの信者でもありませんけどね。でも、興味というか、知りたいとは思いますよ。神々のことを」
もう少し早くここに来れていたら、よかったのかな。
いまさら言っても、しょうがないか。
「じゃあ、番人さん、さようなら。
また来ます」
「ああ、待っているよ」
しわくちゃの手を小さく振って、番人さんはおれを見送った(そのままの意味で)。
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