ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.118 )
日時: 2022/06/08 17:14
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: gf8XCp7W)

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 一階に戻ると、何故か、日向とパルファノエさんが話していた。当然ながら、仲良さげに、とはいかないが。
 それでも、日向がおれたち以外と話すことは、義務連絡などを除けば、ほとんど無い。
 日向の性格もあるが、それよりもまず、誰も、日向に自分から近づこうとはしないのだ。日向に話しかけるとしたら、おれたちを経由したり、逆に、おれたちに用があって、日向にそれを取り持ってもらおうだとか、せいぜい、そのくらいだ。日向本人に用があって話しかける、なんてことは、まずない。

 そのはずなのに。

 なにを話しているんだろう?
 気になり始めると、その感情は止まらなくなり、気づくとおれは、日向に話しかけていた。

「日向、なに話してるんだ?」

 日向の背後から話しかけたはずだけど、日向は驚いた様子など全く見せずに振り返り、答えた。
「私がどうしてセディウム語を話せるのか聞かれたから、答えてた」

 大陸フィフスを含めた怪物族が住む大陸、[黒大陸]では、言語が統一されている。テネヴィウス神が、生み出した種族に直々に言葉を教え、その種族が世界に散らばったとか、様々な説があるが、どれも確証はない。

 余談だが、キメラセル教の民族のなかで最も使われている割合が大きい言語のディミラギア語と、セディウム語はよく似ている。これについても諸説あるが、しっかりとした根拠を示せているものは少ない。
 似ているが故に、一方の言語を知っていると、その知識が邪魔をして、わずかにちがうだけの言葉が理解しにくい。なので、意外かもしれないが、この二つの言語の両方を綺麗に話せる者は、少ないのだ。

 つまり。

「わたしと同じⅤグループなのに、こんなに上手く二つの言語を話せるなんて、すごいです!」

 こういうことだ。
 おれは少し身構えた。実際に体を動かしたわけではないが、意識として、だ。
 そんなおれとはうって変わって、日向は淡々と告げる。
「実技にも、筆記にも、『セディウム語』なんて科目はない」
 そんな科目があれば、セディウム語を普段から使っている生徒に有利すぎるからな。得意不得意以前の問題だ。
 バケガクはそこもきちんと配慮されていて、原則として会話や筆記テストはディミラギア語(現代ではキメラセル教信者の方が世界全体でみても割合が大きいため)が用いられているが、会話は強要はされないし、筆記試験に関しても、どうしてもディミラギア語が読めない生徒には、別に試験用紙が用意される。
 そのためにはディミラギア語以外の言語が扱える教師が複数名必要で、そのぶん人材費も余計にかかってしまうはずだが、そこは、まあ、学園長の力量というわけだ。

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