ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.120 )
日時: 2021/05/21 13:53
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: KBFVK1Mo)

 19

「お帰りなさいませ、龍馬様」
「うん、ただいま」
 おれは屋内用の靴に履き替えて、ほうきをツェマに渡した。
 特に用事もないので、部屋に戻るつもりで、長い曲がりくねった廊下を歩く。

 すると、歌が聞こえた。

 この声は、真弥姉か?

『……れー、ねーむーれー』

 子守唄だ。ということは、明虎とルアに歌って聞かせているのだろうか。

 どの部屋にいるのだろうと、おれは耳を澄ませた。

『どこにいようとどうでもいいだろ』
 うるさい黙れ。お前の声で歌が聞こえなくなる。

 声は、かなり遠くから聞こえているようだった。
 これは、屋外だな。

 おれは引き返し、玄関に戻った。そこにはまだツェマがいて、おれの靴を片付け終わったところらしかった。
「龍馬さま、どうかいたしましたか?」
「真弥姉が歌ってるみたいだからさ、ちょっと見てくる。靴、出してくれるか?」
 おれはこき使っているみたいで申し訳無かったのだが、ツェマはほんの少しも嫌そうにせずに、腰を折った。
「承知いたしました。少々お待ちください」
 ツェマはてきぱきと動き、僅か数秒でおれの足元(土足でもいいエリア内ではあるが)に靴を置いた。
「ありがとう」
 礼を述べてから、おれは外に出た。

 声の大きさで考えて、屋敷の敷地内にはいるはずだ。

 声を頼りに探していると、見つけた。
 連なって植えられた木々の中の一本に、三人で仲良くもたれ掛かり、真弥姉が中央に座って、眠る二人に歌っている。

『眠れ眠れ幼き子よ
 眠れ眠れ春の風に
 眠れ眠れ幼き子よ

 水も土も火も風も
 全ては汝に安らぎを
 眠れ眠れ
 光も闇も精霊も
 全ては汝に温もりを
 眠れ眠れ春の風に

 眠れ眠れ幼き子よ
 眠れ眠れ春の風に
 眠れ眠れ幼き子よ

 我らと共に』

 この歌は、全世界に共通している、最も有名な子守唄だ。
 おれも昔、よく真弥姉に歌ってもらっていた。

 おれはうまく歌えないけれど。よく明虎に「音痴」って言われていたっけ。

 第二幕【完】