ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.124 )
日時: 2021/05/21 14:00
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: KBFVK1Mo)

 4

「これ」
 だれもいなくなった教室で、二人きりになってしばらくしてから、日向はおれに、薬を渡した。麻布の巾着袋に包まれて。
「ありがとう。いつも、ごめんな」
 かしゃりとおれの手のひらで音がするのを確認して、おれは言った。
 日向は首を振った。
「巻き込んだのは、私だもの」
「望んだのはおれだよ」
 そもそもは、おれの我儘から始まったんだ。
 これは、おれが招いた結果だ。

「もう、行ける?」
 日向が尋ねた。
「あ、ちょっと待って」
 おれは肩から下げていた通学鞄に、巾着袋を入れた。アイテムボックスに入れてもいいけど、いちいち詠唱しなければならないので、このくらいのものなら鞄に入れる方が手間は少ないのだ。
「よし、いいぞ。行こうぜ」
 日向は頷き、歩きだした。

 森の中に入ったところで、おれはふと、気になった。
「日向、あの子がどこにいるのかって、わかるのか?」
「歩いていれば、じきに向こうから」
 日向が言いきる前に、声がした。

「姉ちゃん!」

 男の子、朝日くんの姿が見えた瞬間、薄暗かった森の中に、光が差した。
 深緑の葉っぱは鮮やかな新緑に変わり、毒々しい気味の悪い模様をしていた幹は、彼を祝福するように、生き生きとしだした。
 絵に表せば、彼が歩いた道に、花が咲き誇るような、そんな雰囲気さえ感じさせた。
 と思ってみてみれば、何故か動物、しかも、愛でられるタイプの小動物が、朝日くんに寄ってきた。
 くりっとした丸い目から覗く濃い桃色の瞳は、嬉しそうに輝いている。

 その容姿を一言で表すと、『眩しい』、だった。

 5 >>125