ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.125 )
- 日時: 2021/05/21 14:02
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: KBFVK1Mo)
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「姉ちゃん、何変な顔してんだ?」
朝日くんは日向に近寄り、言った。気にすることではないけど、うん、近い。かなり、近い。足だけで見ると、十センチも離れていない。
眩しそうに目を細めていた日向は、すぐにいつもの無表情(さっきも無表情だったけど)に戻り、朝日くんの肩を押して、距離をとった。
「別に」
なんの動揺もしていないところを見ると、いつもの事なのだろうか。いやまあ、二人は姉弟なんだから、気にすることではない。うん。
『いや、どう考えても気にしてるだろ』
うるせえよ! だまれ!
「朝日、とりあえず、自己紹介」
日向が朝日くんに言った。すると、朝日くんは口をとがらせた。
「えー」
面倒くさがるような、それでいて甘えるような声。
朝日くんは、わかりやすいくらいに、日向のことが好きなんだな。
その証拠に、朝日くんは渋々といった様子を見せつつも(こういう所は姉弟なんだなと思う)、おれに向き直った。日向の言葉に反抗するという選択肢は、はじめから存在しないのだろう。
「ボクの名前は花園 朝日。GクラスのⅢグループの生徒。これ以外に、なにかある?」
日向は少しの間静止して、答えた。
「ない」
そして、日向の目がおれに向いたことを確認し、おれは口を開いた。
「はじめまして、おれの名前は笹木野」
「知ってるよ、そんなこと、言われなくても」
おれはびっくりしてしまった。Gクラスなら、明らかにおれの方が先輩という立場なのだから(バケガクでは、生徒間の上下関係はクラスで分けられる。種族での成長速度の違いを考慮した結果だが、改善点があると言われている)、言葉を遮るのは失礼に当たる。
まあ、それはいい。
おれがびっくりしたのは、その目。
はるか北の国にだけ生息すると言われている『氷の華』のごとく冷たい、冷ややかな目で、朝日くんはおれを見ていた。
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