ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.129 )
日時: 2021/05/21 14:04
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: KBFVK1Mo)

 9

 朝日くんは口をとがらせた。
「そんなこと気にする必要ないだろ!」
「あるから聞いてるの」
「ないよ!」
「答えて」
 朝日くんはしばらく黙ったまま、日向を睨んでいた。まあ、睨んでいると言っても、小さな男の子が母親にするみたいな、やっぱり、どこか『甘え』を感じさせるような動作だった。

「簡単な話だよ」

 朝日くんはため息混じりに言った。

「姉ちゃんに会いたかったから。だって、実の姉弟なのに、八年前のあの日以来、一度も会ってなかったじゃんか」

 日向は何も言わない。
「だから、じいちゃんに頼み込んで、入学させてもらったんだ」
「自主希望ってこと?」
 入学理由が、ということだろう。
 朝日くんはわずか一拍おいて、返事をした。
「うん、そう」

 日向は目を細め、じっと、朝日くんを見た。
 そして、微かに口を動かし、何も言わずに閉じて、再び開いて、言葉を発した。

「そう」

 なにか引っかかると、日向は目で言っていた。

 朝日くんは、気づいているのかいないのか、わからない。

 ただ変わらず、にこにこと微笑んでいる。

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