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ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも…… ( No.13 )
- 日時: 2022/01/29 14:46
- 名前: ぶたの丸焼き (ID: u3utN8CQ)
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今日の一限目は精霊との仮契約をするらしい。仮契約とは、特定の時期を迎えると契約者たちの意思に関係なく契約が切れてしまう契約のこと。私たちは毎年一年間の仮契約を精霊と結ぶ。今までで仮契約を結んだことのある精霊と結ぶこともあるし、新しい精霊と結ぶこともある。仮契約を結ぶことで私たちにも幾つか利点があったりする。
ライカ先生は教室に入るなり言った。
「それでは早速、始めましょう」
ライカ先生の授業では起立や礼などはしない。そこは先生によって違うのだ。なかなか統一してくれないので、新入生はよく間違えておろおろしている。
「声ではなく、心で語りかけるのです。焦ってはなりません。『精霊様、いらっしゃってください』と、敬意をはらって呼び出しましょう」
それを嫌がる精霊もいることを、彼女は知らない。だが、それを指摘しても面倒くさいだけなので、私は毎回スルーする。
生徒たちは両手を組み、目を閉じた。私もそれを真似し、同じように、精霊たちに語りかけた。
「誰か私と契約を結んで」
すると。
リィ……ン
鈴のような音が聞こえた後、声がした。頭に直接響くような、それでいて心地の良い声だ。
『わたしと結びましょう。ね、いいでしょう?』
目を開けると、そこには美しい精霊がいた。
ふわふわしたショートボブのクリーム色の髪。おっとりしたたれ目の若草色の瞳。背中には瞳と同じ色の羽が生え、薄い白い布を纏っている。
『名前をちょうだい』
「それじゃあ、リン」
リンはぱあっと笑顔になった。
『あなたの名前は?』
「日向」
リンは言った。
『素敵な名前ね』
素敵? そんなこと、初めて言われた。
だって、私の名前は、私じゃないから。
私は、 だから。
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