ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.130 )
日時: 2021/05/21 14:06
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: KBFVK1Mo)

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「姉ちゃん、一緒に帰ろうよお。姉ちゃん家に泊まっちゃだめ?」
「だめだし聞きたいことはもうない。早く帰りなさい」
「えー! 姉ちゃん冷たいよ!」
 そうやってかわいらしく(幼いという意味で)怒って見せていた朝日くんが、急に、ふっ、と笑った。
「姉ちゃん」
 その微笑が、飛びっきりの笑みに変わる。

「あと、ちょっとだよ」

 何を言っているんだろう。
 日向もわからないらしく、おそらくその言葉の意味を問おうとして、口を開いた。しかし、日向が朝日くんに質問することは無かった。

「じゃあね、姉ちゃん、また今度!」

 朝日くんは大きく手を振り、去っていってしまった。
 日向はしばらく顎に手を置いて、考え事をしていたらしかった。別に急ぐ用事もないし、少しでも長く日向といたかったので、おれは日向を待った。

『お前さ、いくら心の中とはいえ俺が聞いてるのに、そんなこと言うの恥ずかしくねえのかよ』

 は? なにが?
「ねえ」
 おれがアイツに言ったほぼ同時に、日向の声がかかった。
 何かあるのかと思って日向を見ると、ぎょっとした。

 日向はおれを、睨んでいた。

 いや、落ち着け。日向がおれを睨むわけが無い。だからつまり。

「なにか、知ってるの」

 この問いかけは、『アイツ』に対して。

『知らねえよ』

 嘲り笑うような口調と声音で、おれの口から声が漏れた。

 その瞬間、背筋に悪寒が凄まじい勢いで走った。
 ムカデが背中を這いずり回るような気味の悪さと、胃に氷の塊が唐突に出現したような寒気と、喉に腫瘍が出来たような違和感。
『過剰に反応しすぎだっての』
 うるせえ! あたまのなかで響くだけでも嫌だってのに!

 自分の口から『アイツ』の言葉が出てきたと言うだけで、虫唾が走る。

「ごめん、リュウ」

 けど、申し訳なさそうにうつむく日向の姿を見て、その感情はあらかた吹き飛んだ。
 許す。全然許す。
『言っとくけど、お前、かなり気持ち悪いからな』
 いいよ。おれの中では日向が正義なんだよ。
『きもちわる』
 ほっとけ!

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