ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.131 )
- 日時: 2021/05/21 14:17
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: KBFVK1Mo)
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「お帰りなさいませ、龍馬様」
おれが家に帰ると、ツェマが迎えた。いやまあ、それは普段通りのことでなんら問題は無いのだが、いつもと違い、手に新聞を持っている。
これでは、手を体の前においてお辞儀をするという、メイドにとっては必須とも言える動作がとれない。ということはつまり、ツェマにとって、メイドとしての責務よりも、その新聞をおれに見せる方が優先度が高いということなのだろう。
自分の発想になかなか大袈裟な感を感じなくもないが、大まかな部分としては合っているだろう。
「ただいま。どうかしたのか?」
「お疲れのところ申し訳ありません。龍馬様にとっては重要かもしれない記事が、本日の夕刊で載っていましたので、後ほどのお時間が空いたときでも、読んでいただけないでしょうか」
そんな後で読んでもいいようなものを、わざわざ玄関まで持ってくるわけが無い。
「ううん、読むよ。貸してくれ」
おれは靴を脱いでから、ツェマに対して手を差し出した。
「承知致しました」
ツェマは浅く礼をして、おれに新聞を渡した。
その場で読んでも良かったけど、立ちっぱなしで読んでいるとツェマが気にするかと思い、移動することにした。
三分ほど歩いて、いつもの団欒部屋に行った。
「兄ちゃん、お帰り!!」
「ごきげんよう、お兄様」
元気いっぱいの明虎と、眠そうに目を細めたルアが、嬉しそうにおれに顔を向けた。
「ただいま」
無邪気な二人の笑顔に、ついついつられてしまう。
と、そのとき、ふと気づいた。
「あれ、ルイ、もう起きてるのか?」
赤紫のサイドドリルの髪を見つけて、おれは言った。
吸血鬼にしては歳の近い姉妹であるルアとルイだが、性格をはじめ、かなり差がある。似ているところは髪型と、吸血鬼の中でも飛び抜けて優秀であることくらいだろうか。
「何か問題ある?」
顔を向けたルイから発せられた、ぎろ、という効果音がつきそうな、鋭い眼光が、おれに突き刺さる。
「いいや? 珍しいなと思って」
「関係ないでしょ」
突き放すような物言いには、もう慣れっこだ。
おれとは違って、ルアとルイは純血の吸血鬼だ。昔、混血のおれが優秀なのであれば、純血の二人はもっと優秀に違いないと、プレッシャーに近い期待をかけられていた。その後のおれの功績によって、おれが特殊なだけであると、皆には認識を改めて貰ったので、現時点ではその問題は解決した。
しかしやはり、本人たちとしても気になる部分ではあるようだ。ルアはおれに教えを乞うようになり、ルイはおれに敵視を向けるようになった。どちらにせよ、本人たちの向上心を刺激しているようなので、特に気にしたことは無い。
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