ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.135 )
日時: 2022/02/08 09:47
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: 4rycECWu)

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 その日の夜。日付が変わった頃、椅子に座って本を読んでいると、不意に、耳に水が滴る音がした。

 ピチョン……

 その音を合図に、おれは顔を上げた。

「おかえり、ネラク」

 月光すら差さない(普通の人間が見れば)暗い部屋に、ぼんやりと、淡い水色の光が満ちる。
 おれのすぐ側に、ネラクがいた。後ろで一つに束ねた長い蒼色の髪は、かなり白色の羽にかかっている。
 ネラクはなにも言わずに目を閉じ、「ふんっ」と力んだ。

 鋭い、針のような光が一瞬だけ部屋を包み、そして、手のひらサイズだったネラクは、大きくなってそこに居た。

 大きく、と言っても、おれよ三十センチは小さい。まあ、おれの背が高いというだけなので、今の背丈だと、ネラクは人間で言えば、十五歳くらいに見える。

 ぼすっと比較的大きな音を立てながら、ネラクはおれのベッドに座り込んだ。しなやかな指が上質なベッドに食い込み、おれの視点だと両手はほとんど見えなくなる。
 短いズボンから露出した細い足を組み合わせ、そして、おれを見た。

 状況で言えばおれを睨むような体勢だったが、その瞳に宿る光に鋭利なものは感じない。単におれを見たというだけだった。

『暗いな』

 男性にしてはやや高い、それでも女性と比べると低い、中性的とも言える声が、ネラクから発された。

「そうか?」

 暗いということは、いや、ネラクが暗いと感じるであろうことは、わかっていた。しかし、おれはわざとすっとぼけた。理由はない。ただの契約関係同士のじゃれあいの一環だ。

 部屋にある光源は、わずかに灯る弱いロウソクの炎だけだ。これは夜目があまり効かないネラクのためのもの。
 他の吸血鬼は、明るいと見えないと言う奴までいる。おれはそんなことはないので、ありがたい。

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