ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.136 )
日時: 2021/08/25 12:21
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: .lMBQHMC)

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『で、どうしておれを呼んだんだ?』

 あの新聞を読んだ直後、おれはネラクを呼び戻した。ネラクは普段、おれが行けないような、例えば古代の遺跡とかに行ってもらっている。理由は、おれの魂から『あいつ』を引き離す方法を探るためだ。

 おれたちの関係は『本契約』。日向がベルと結んでいるような契約を、おれたちも結んでいる。

 本契約を結んでいると、互いの『意思』を、何処にいようと伝えることが出来るのだ。テレパシーのような類ではなく、音ではなく、あくまで『思念』として、言葉で説明するのは難しいのだが、とにかく、それを使って、おれはネラクを呼んだのだ。

「日向の弟のことは、知ってるか?」

 おれが尋ねると、ネラクは左の眉を、やや吊り上げた。
『なんだ、もう知ってるのか?』
 おれは首を傾げた。疑問ばかりで話が噛み合わない 。

『花園 朝日だろ? あの人は彼の情報をガードしていたはずなのに、それが漏れているから、何かあったんじゃないかと思ってたんだ。
 今回呼ばれたから、ついでにそのことを話そうと思ってたんだよ。まさか呼ばれた理由がそれとはな』

 なるほど。
「おれは、今日、朝日くんに会ったんだ。それで、ちょっと気になるところがあってさ」
『と言うと?』
 ネラクがおれの言葉を促す。
「日向のことが大好きらしい行動と言動ばかりなんだけど、なんて言うかこう、違和感じゃなくて、しっくりこないでもなくて、えっと……」
 おれは意味無く両手を動かしながら、必死に言葉を紡ぐ。しかし、ピッタリと当てはまると思える言葉が見つからない。

『わかった。彼を調べればいいんだな』

 その言葉を聞いて、ほっと息を吐いたのを、自覚した。
『なんだよその顔。それくらい通じるよ』
 真面目な顔が打って変わり、怪訝そうな目で、ネラクがおれを見た。
「いや。ほんと、よく出来た相棒だなと思ってさ」
『なっ!』
 本心から嬉しく、ほぼ無意識に出てきた言葉だった。

 みるみるうちにネラクの頬が紅潮し、ネラクがベッドから跳び降りる。実際は元から床に足をつけていたので『跳』んではいないが、そう見えるほど、大袈裟な動作だったのだ。

『べ、別におれは、あの人のためにやるんだからな! 勘違いすんなよ!』

 ビシッと人差し指を鼻に突きつけられ、おれはたじろいだ。

「え、あ、うん、わかったわかった」

 照れているのだということは一目瞭然なので、笑いながら言ったことは、不可抗力なので勘弁して欲しい。

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