ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.139 )
日時: 2022/05/22 08:19
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: bAc7FA1f)

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 そのまま空中に静止しているのもなんだか嫌なので、ひとまずおれたちは、ゆっくり日向の家に向かった。

『それがね、昨日、新聞で、朝日くんが日向と一緒に住みたいって言ってることがわかって、今朝、日向がおじい様の家に問いただしに行ったのよ。わざわざ学校を休んで、どういうことなのか、ってね。だけど、日向と日向のおばあ様を対面させる訳にはいかなくて、日向の家に移動したの』

 ベルは肩をすくめた。

『リュウたちには言ったこと無かったけど、隠す必要もないから言うわ。
 あのね、日向のおばあ様は、精神に異常をきたしているの。えっと、その、ほら、日向の目。
 日向の家系、花園家は、大陸ファーストの民族の中でも、特に優秀な家系なの。リュウなら、おじい様の功績を、小耳に挟むくらいの機会はあったんじゃない?』

 おれは頷いた。

『そんな家に、白眼を持った子が産まれれば、批判されるのは、想像することは容易でしょう?』

 ああ、そういうことか。
 たしか、日向に虐待をしていたのは、母親だったはずだ。
 だけど、母親『だけ』が、なんて確証はどこにもない。

『日向のおばあ様はね、天陽族の出身じゃないの。役職は、おじい様と同じエクソシストだけどね。
 それで、親戚中から結婚を反対されていたらしいの。でも二人はそれを押し切って結婚して、生まれた子は日向のお母様ただ一人。生まれた子が一人であること、その子が女性であること、容姿が天陽族の象徴である、金髪に萩色の瞳ではなかったこと。おばあ様はどこへ行っても罵詈雑言で叩かれて、精神がおかしくなっていったの。そんな姿を見て育ったお母様もね。
 お母様の容姿はおばあ様と瓜二つだったの。黒髪に青眼。とても美しかったけど、そんなの、なんの気休めにもならなかった』

 気づけばベルは、すすり泣きながら話していた。

『日向のご両親は、お互いが望んで結婚した訳では無いの。おじい様のこともあって爪弾きにすることも出来ないから、優秀な血を混ぜるために、特に優れた才能を持ったお父様を、お母様と結婚させたの』

 ベルは自分で飛んでいたけど、おれは、ベルを手のひらに乗せた。ベルはそのまま座り込んだ。

『それなのに、日向が生まれた、生まれてしまった。その瞬間に、家族は壊れたの。お母様とは違って金髪ではあったけど、青眼はそのまま受け継いでいたし、なにより、白眼を持っていた。黒髪だとか青眼だとか、そんなことを言っていられる場合じゃなくなったの。どこの国でもそうだけど、特に、闇に対抗する、種族であり民族の一つである天陽族から、白眼の子が生まれただなんて、汚点と言うにも優しかったの。
 日向本人は全く気にも留めていなかったけど、あんなに強い、というより空虚な精神を、お母様たちは持っていなかった』

 その言葉は、日向自身にも何かしらの、言葉だったりを浴びせられていたということだ。そのことを無視する訳にはいかなかったけれど、いまは、ベルの言葉に耳を傾けた。

『それでもお父様は、お母様にも日向にも、堅実に接してくれていたの。
 お父様は、優しい人だった。日向を一生懸命愛そうとしてくれていた。それが叶うことは無かったけど、それでも!
 あんなに優しい人が、亡くなってしまうなんて!』

 溜め込んでいたのだろうか、ベルはわあっと泣き出した。顔を手で覆い、ただ、小さな小さな針の先端のような水滴が、おれの手に落ちた。

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