ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.141 )
日時: 2021/05/27 17:27
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: zpQzQoBj)

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 日向はそれ以上、何も言わなかった。
『ねえ、日向。話してあげたら?』
 おそるおそるといった様子で、ベルが言った。
『ごめんなさい、余計なお世話かもしれないけど。
 でも、リュウは知りたいんでしょう?』
 控えめにおれを見るベルの目は、不安に揺れていた。

 日向は、何も言わない。

 おれも、何も言わない。

 ただ沈黙のみが、静かに、空間にのしかかった。

『ひな』

 ベルは何かを言おうとしたけど、押し留まった。今にも泣き出しそうな顔で、日向とおれを交互に見る。

「知りたいの?」

 純粋な疑問の音が、日向の口から発せられた。
 おれは少し迷ったあと、頷いた。すると日向は、目を閉じ、そして、すぐに開いた。

「不思議だった」

 驚いた。日向は話してくれるらしい。

「私を愛したところで、何も変わらない。なのに、父さんは、私を愛そうとした。
 私が愛を感じることはないと、わかっていたはずなのに。
 だって、愛そうとして愛するその感情は、有償の愛は、本物じゃない。私はそれを、『知識』として知っている。
 リュウも、同じでしょ?」

 ああ、そうだ。
 おれは、無償の愛がわからない。
 家族はおれを愛してくれているけれど、おれは、心でそれを感じることが出来ない。
 客観的に見て、愛されているんだろうな、と思う。

 それだけだった。

「母さんは、完全に私を無視していた。でも、食事やお金や部屋なんかは与えてくれていた。
 母さんたちには、私のステータスを見せたことがあるの。確かにグレーゾーンではあるけれど、私にクエストを紹介してくれたり、魔物の素材を買い取ってくれるギルドだって、私は知っている。そのことも、伝えていた。
 なのに、私の存在そのものを、無視することはしなかった。
 不思議でしか無かった。むしろ、気味が悪かった。意味の無いこと、する必要のないことをする両親が。
 それ以外に、何も感じたことは無かったし、そもそもあの人たちに、興味がなかった」

 日向は一度言葉を切って、付け足すように、こう言った。

「母さんからは、虐待を受けていたけど、それについてなにか思うようなことは、微塵もなかったよ」

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