ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.142 )
日時: 2022/05/27 07:40
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: AKhxBMxU)

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 視線を感じる。
 ぼそぼそと、声も聞こえる。
 日向の言葉を受け取り、理解したあと、おれは気配のする方向を見た。
 まだ聞きたいことはあったけど、本来聞く気の無かったことを聞くことが出来たんだ。おれはここで、満足するべきなんだ。

「ねえ、もしかして……」
「きっとそうよ……」

 そこそこ年を重ねているらしい女性二人と、その子供らしい三人の男の子、それから一人の女の子がいた。

「わー! よそ者だ! よそ者だ!」
「こわいこわい! あれってきっと〔邪神の子〕だ!」
「にげろにげろ!」
「きゃー!」

 面白がったように騒ぎ立て、四人の子供たちは、あっちこっちに走り回る。

 まずい!

「日向、おれ、かえ」
 しかし、おれが言葉を最後まで続けることは叶わなかった。
 今にも唸り声を上げそうな、猛獣のようなオーラを、日向は纏っていた。
 冷たい目の中に、煮えたぎる真っ赤な炎をちらつかせながら、向こうにいる六人を睨み付けている。
 自分に向けられたものではないとわかっていても、恐怖を感じずにはいられない表情だった。おれでさえそうなのだから、無論、あの六人はすくみあがった。
 けれど、逃げるようなことはしなかった。

「ママー、こわいよー!」
「よしよし、大丈夫だからね」
「おー、こわいこわい」

 わざとらしい声と動作で、おれの目の前で、いや、日向の目の前で、茶番が繰り広げられている。

 なんなんだ、この人たちは。

 虫酸が走る。

 具体的な名称はわからないけれど、おそらくこの人たちは、天陽族にルーツがある種族だ。
 大陸ファーストには、悪を『祓う』〈天陽族〉と、悪を『滅する』〈天陰族〉の、大きく分けて二つの種族が共存しており、それ以外の種族も、大抵はどちらかにルーツがある。

 天陽族の特徴は金髪とその能力であり、瞳の色は限定されていないと聞いている。赤系統か黄系統……まあ、この世界に『純粋な赤』を持った種族は、例外を除き存在しないので、大雑把に言うと、ピンク、黄、橙や、それに近い色の瞳を持つとされている。

 そして、この人たちの瞳の色は、薄桃色だ。朝日くんのような、あめ玉のような透明感のあるピンクではなく、白に近い、白のあの濁ったような感じが強く見られる、そんな色だった。虐げられるのは『混じり気のない白』なので、なんの弊害もないだろうけど。

 ──あちらの方が、よっぽど醜い。

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