ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.144 )
日時: 2022/10/10 22:05
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: 9nuUP99I)

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 日向に連れられて、おれたちはリビングに行った。おれの家と比べてしまうと当然小さいが、一般的な広さだと思う。
 四人掛けのテーブルには、朝日くんが座っていた。朝日くんの前と、その隣の席、そして朝日くんの向かい側の席に、ティーカップが置かれている。

「なんで、そいつがここにいるの?」

 日向を見て笑顔になった朝日くんが、おれを見た途端、顔をしかめた。思わず、というよりかは、故意が混じったような表情だ。

「私が連れてきたの」

 おれが口を開く前に、日向が言った。自分が何を言おうとしていたのかはわからない。けれど、おそらく、「ごめん」だとか、そういった類いのものだろう。

「姉ちゃんが? どうして?」
「リュウのことを、近所の人に知られたから。あのまま帰るのは、だめ。
 座って。同じのでいい?」

 最後の方の言葉は、おれに向けられたものだった。同じの、というのは、飲み物のことだろう。
 おれは好き嫌いが全くない。血を飲まないのは、別に味が嫌いなんじゃなくて、単に暴走するのが嫌なだけだ。

 なので、特に深い意味もなく、ほぼ無意識に日向のティーカップの中身を確認してから、頷いた。
「ああ、ありがとう」
 なんの変哲もない、ただの紅茶だった。

 遠慮しすぎるのも失礼なので、おれは男性と朝日くんに断りを言い、勧められた席に着いた。
 おれも、あちらも、なにも言わない。沈黙が途切れたのは、日向がおれの分の紅茶を持って、戻ってきたときだった。

「ありがとう」

 さっきのとはまた違った意味で礼を述べると、日向はおれと視線を交えた。これが日向の相づちだ。
 そしておれは、男性を見た。緊張で心臓が高鳴っていたが、それが声に影響することはなかった。もともとおれは、ポーカーフェイスが得意だ。表情からも、緊張は伝わっていないはず。

「初めまして。私は笹木野 龍馬と申します」

「ご丁寧に、どうも。私は花園 七草なぐさです。
 日向とは、どのような関係で?」

 それは菜草さんも同じなようで、少なくとも、おれには七草さんの感情は計れなかった。

 おれは迷った。おれと日向の関係は、かなり複雑だ。主に、おれたちの間にある感情が。
 とりあえず、友達ではない。おれと日向が友達なんて、畏れ多い。おれと日向はそんな、『対等な関係ではない』。

 かと言って、クラスメイトと言うのも、なにか違う。
 そうは言っても、正直に、「具体的に言い表すことの出来る名称がない」と言っても良いものか。

 悩んだ末に、待たせるのも良くないと考え、おれは言った。

「すみません。お答えしかねます」

「なに?」

 訝しげな表情をした七草さんの瞳の光は、強く、鋭くなった。
 言葉を続けようとしたおれを遮ったのは、朝日くんだった。

「なんで言えないのさ! やましいことでもあるの?!」

「朝日」

 すかさず日向がなだめに入った。
「続き、あるから」
 日向はそれを、察してくれていたようだ。

 朝日くんのことが気にはなったが、七草さんが促すようにおれを見ていたので、そちらに意識を向けた。
「日向とは、友達ではありません。けれど、クラスメイトというだけの関係でもありません。おれたちの関係は、名前がないのです」

 一人称を変えたのは、意識してしたことだ。さっきは『カツェランフォートの一員』として接していたが、いまは、『笹木野 龍馬』として話している。

 七草さんは不思議に思っているような雰囲気を出して、日向を見た。
 日向はその視線に気づいていたけれど、質問されていないので、なにも答えない。

 さすがは親戚というか、それを良くわかっているようで、一秒だけ時間を空けたあと、七草さんはすぐに日向に対して言葉を発した。
「そうなのか?」
 日向は面倒くさそうだった。

「私と龍馬は、互いの認識の仕方が異なるから、なんとも言えない」

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