ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.146 )
- 日時: 2021/05/30 12:59
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: axyUFRPa)
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六年前のあの日。あのときから、おれの人生は始まったんだ。
おれがバケガクに入学した理由は、日向に会うためだった。実を言うと、おれは、上流階級の吸血鬼たちの通う[タラゴストリー]への入学が決まっていた。おれが望んだわけではなく、じいさまが決めたことだ。じいさまの命は絶対だし、おれも不満はなかった。学校なんてどこでも良かった。学ぶことは嫌いじゃないし、[タラゴストリー]で学べないことは、独学で学べば良いと思っていた。
けれど、おれは、《白眼の親殺し》の新聞記事を見てしまった。
『読んだ瞬間』ではない。『見た瞬間』。そのとき、おれの人生は、おれの進路は、決定した。されたんじゃない、おれ自身が、そう『した』のだ。
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「龍馬様」
ツェマに来客だと告げられ、応接間に向かうと、そこには、フロス嬢がいた。
「お久しぶりです、シュリーゴ嬢」
おれが向かいに腰を下ろし、笑い掛けると、フロス嬢は、目を見開いた。その目の中には、『驚き』よりも、『絶望』に近いような、そんな気がした。
フロス嬢がおれに好意を、『そういう意味での』好意を持っていることは知っている。けれどおれは彼女を突き放すために、わざと名字で彼女を呼んだ。
「ええ、久方ぶりですね、龍馬様」
フロス嬢はすぐに顔に笑みを張り付け、おれに挨拶をした。
「本日はどのようなご用件で?」
そんなものはわかりきっていたが、おれはとぼけたふりをした。
フロス嬢は顔をしかめた。
「わたくしたちの、婚約についてお話をうかがいに参りました」
フロス=シュリーゴ。
吸血鬼五大勢力のひとつ、シュリーゴ家の次女。名字の由来として、カツェランフォートは『猫の足』、シュリーゴは『コウモリ』を意味しており、どちらも動物に関係しているので、はるか昔より親交を深めてきた。なんでも、先祖同士が勢力争いの協力関係だったんだとか。他の五大勢力であるロット家とシャヴォーツ家も、同じようだったらしく、それぞれ『赤』と『黒』を示す。そう考えると、ベアンシュタイン家は、どことも協力せずに、吸血鬼たちの頂点に君臨したということになる。故にあの家の人々は、誇り高いというか、悪く言うと高慢な者が多い。
そしておれは、彼女の婚約者『だった』。フロス嬢の父君、グレイド様が、おれがバケガクに入学すると知った瞬間、婚約破棄を言いつけてきたのだ。
入学を決めた側であるおれは、もちろんそのことは承知だったが、フロス嬢はそうもいかない。全てが急に起こったように思えたことだろう。
フロス嬢は、少なからぬショックを受けているはずだ。もうその義理はないとはいえ、無視することは良心が痛む。
「はい。なんなりとお尋ねになってください」
おれはにこやかに、そう言った。
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