ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.147 )
日時: 2022/05/27 08:04
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: AKhxBMxU)

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 フロス嬢は、ぎりっと歯軋りをした。
 拳を机に叩きつけることはしなかったものの、手はぶるぶると震えている。

「なんなりと?」

 低く、唸るような声がした。

「では、何故なんの相談もなく、勝手に[タラゴストリー]への進学をやめ、[聖サルヴァツィオーネ学園]へ入学することを決めたのですか? しかも、この時期になって、突然」

 本来であれば、この春から、[タラゴストリー]に通うはずだった。入学を目前とし、急遽進路を変更したとなれば、唐突すぎると考えても、なにも不思議ではない。むしろおれが非常識なのだ。この進路変更は、バケガクにも、[タラゴストリー]にも、じいさまにも、迷惑をかけた。

「実を申し上げますと、私は前々から、御当主様に進路を変更したいという意志を伝えていたのです。もちろんすぐには首を縦に振っていただけませんでしたが、先日、ようやく許可をいただけたのです」
「ですから、どうしてこのような時期に?」

 おれは困ったような笑顔を作った。

「簡単な話です。私がしつこく頼んだのです。シュリーゴ嬢の仰る通り、[タラゴストリー]への入学式まで、もう目と鼻の先でしたから、それはもう、必死に」

 別に隠すほどのことでもないが、一応はぐらかしておいた。いま、おれとじいさまは、決裂状態にある。屋敷全体もぎすぎすしていて、そこを他家に付け入られるのは、色々とまずい。下手をすると、カツェランフォートの地位が揺らぐかもしれないのだから。

 それに、フロス嬢も気づいたのだろう。小さくため息をつき、論点を『何故この時期に進路を変えたのか』からずらした。

「質問を変えます。どうして、そこまでしてバケガクに行きたかったのですか?」

 フロス嬢の目から、怒りの感情が消えた。いや、腹の底ではまだ怒っているだろう。しかし、その目に宿る光が、怒りよりも、真意を見極めようとする色の方が強かった。

 どういう風に答えようか、少し考えたあと、おれは告げた。

「口外しないというのなら、理由のわずかな部分だけでもよいのなら、そして、これ以上の追求を、この話以外も含めてしないと言うのなら、お話ししましょう」

 おれの体から、重く冷たい『闇』が放たれた。

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