ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.148 )
日時: 2021/06/01 20:49
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: 06in9.NX)

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「すみません、シュリーゴ嬢のことを疑うわけではないのですが、念のため」

 おれから出た『闇』は、薄い布のように、フロス嬢の体に巻き付く。締め付けるというよりは、まとわりつくような動きだ。

【闇魔法・鎖の契約】

 吸血鬼が使う魔法は、呪術といった類いのものが多い。それらは全て、何らかの媒介や媒体が必要だ。例えば、吸血鬼が人間を服従させる場合に、吸血を行う必要がある、とか。

 しかし、おれが使う『魔術』は、それらを必要としない。厳密に言えば、媒体精霊と呼ばれる精霊の力を借りているが、この場合、それはないと考えて良い。

 おれは類い希なる強力な闇魔法の使い手だ。なんの思い上がりでもない。事実だ。そしておれは、魔術だけでなく、吸血鬼本来が持つ呪術も操ることができる。

 つまり、『黒魔法』に分類される魔法全てを操ることが出来るのだ。それも、なんの偏りもなく、均一に、強力に。
 基本、操ることの出来る黒魔法は、魔術か呪術に分かれ、 適応しないどちらか片方は、操るどころか、発動することすらままならない。

 故におれは、〔邪神の子〕と呼ばれているのだ。

 ちなみにこの『邪神』とは、公には『ニオ・セディウム神話伝』に登場する、神々の頂点に君臨するとされる『王の一族』のおさ、『テネヴィウス神』のことであると言われているが、実際には、『才能はあるのにそれを活かさず、宝の持ち腐れだ』と嘲りの意を込めた、『一族の恥・ディフェイクセルム神』のことだと、おれは知っている。

 ディフェイクセルム神は、一族の誰よりも強い力を持ちながら、一族の誰よりも長に貢献しない『役立たず』だとされている。
 さらに、一族に反抗の意志を持っているくせにとても心が弱い、『誰よりも強く誰よりも弱い闇の神』らしい。
 そのことを知ったとき、おれは笑みがこぼれた。

 色んな感情が混じって、ぐちゃぐちゃになって、それしか出来なかったのを、いまだに覚えている。

「では、契約です。
『フロス=シュリーゴは、一つの望む回答を笹木野龍馬に与えられる代わりに、笹木野龍馬に、他のいかなる追求もしない』」

 おれが契約の内容を告げると、フロス嬢は頷いた。

「契約致します」

 すると、うねうねと四方八方にうごめいていた闇は、次々にフロス嬢の胸に入っていった。

「うあっ……」

 苦しげなフロス嬢の声。
 申し訳ないとは思うけど、こればっかりは、どうしようもない。

 そして、フロス嬢の胸に、黒薔薇が咲いた。

 パチンッ

 おれが指を鳴らすと、黒薔薇は霧散する。

「契約完了です。では、お話し致します」

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