ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.149 )
- 日時: 2021/06/02 21:21
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: CqswN94u)
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「そんなに緊張しないでください」
おれは苦笑して見せた。
「理由としては単純です。私には、会いたい人がいるんです。その人が、バケガクにいるんです。
それだけです」
「そっ、そんなことで」
フロス嬢の体から、闇が滲み出た。
その事に素早く気づいたフロス嬢は、すぐに居ずまいを正した。
「他の誰にも、理解出来ないでしょうね。理解していただかなくて結構です。御当主様も、最後の最後まで、私の考えを理解してはいませんでした」
けれど、と、おれは言葉を続ける。
「私は、どうしてもその人に会いたかった。いや、いまも会いたいと思っています。その人のためなら、私はどんなことでもやってのけるつもりです」
おれが言っているその人物が誰のことなのか、おおよその見当がついているのだろう。なんせおれは、「『あの一件』以来変わった」と言われているのだ。むろん、言い意味でも、悪い意味でも。
勘違いされると困るので、おれは付け足しておいた。
「ああ、その人とおれは、面識はありませんよ」
フロス嬢は不思議そうな顔をした。けれどおれは、これ以上話すつもりはなかった。だって、無意味なのだから。
もう、おれに、干渉しないでほしい。
「申し訳ありませんが、私がお話しするのはここまでです。お引き取り願えますでしょうか」
「あ、あの!!」
フロス嬢が、控えめに叫んだ。
「『追求』ではなく、『質問』です。この話とはまた別のことなので、質問してもよろしいでしょうか」
質問の形の言葉でありながら、疑問符はついていない。よっぽど、おれに『拒否』という選択肢を与えたくないのだろうか。
「ええ、まあ、ものによっては、お答え致しましょう」
この『契約』の危険性は、フロス嬢も十分理解させられているはずだ。
その末になにかを尋ねたいとするなら、それは、かなり重要なことなのだろう。
おれは構えて、フロス嬢の言葉を待った。
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