ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.151 )
日時: 2021/06/05 00:04
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: KG6j5ysh)

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「はあっはあっはあっ」

 カンカンと、おれが床を強く蹴る度に、金属音が、静かな階段に響く。

 ギイッ

 おれは屋上の扉を開け、ざっと回りを見回す。

「ここでも、ない」
『だーから、来てねえんだって。諦めろよ』
 先生が見かけたって言ってたんだ! 今日こそ……。
『それ、ここ最近、毎日言ってるだろ』
 うぐっ。

 こいつの言う通りだ。
 おれは、正式にバケガクの入学が決まり、入学式前でも学校に来てもいいというルールを知ってから、毎日バケガクに通っている。
 無論、花園 日向を探すためだ。
 しかし、全く、影も形も見えない。
 目撃証言はとれるんだけれども。まるで心霊現象だ。

 おれは気配で探る、ということも出来るけど、それは、会ったことのある人にのみ適応される。
 花園日向には、会ったことがない、気配を知らないのだ。

 結局、その日も見つけることは出来ず、おれは帰路についた。
__________

 ……。

「最後に、生活指導の先生から……」

 ……。

「以上を持ちまして、九九九一年度、聖サルヴァツィオーネ学園入学式を閉式致します」

 生徒はそれぞれ順番に、会場から退場していく。
「あの、笹木野龍馬さん、ですよね?」
 もうすぐおれの番というところで、隣に座っていた人に声をかけられた。

「はい?」

 その人物は、おどおどした雰囲気の、男の子だった。男の子という言い方をしたけれど、標準である人間年齢で比べると、おれより年上らしかった。

 おどおどしているのは、緊張で、のようだ。

「初めまして! おれ、いや、僕、狼族のセルヴァ=パラジアです!」

 小声でいるだけの理性は保っているようだが、かなり興奮している。

 狼族は、数少ないディフェイクセルム派の民だ。

 セディウム教は、『テネヴィウス派』と、『ディフェイクセルム派』が存在する。どちらも『テネヴィウス神』を最高神として崇める点では共通しているが、テネヴィウス派の民族は、ディフェイクセルム神を『堕落した神』として認識している。

 対してディフェイクセルム派は、ディフェイクセルム神を、『我らが目指すべき存在の象徴』として認識している。
 それは、ディフェイクセルム神がディミルフィア神の味方についたことで、『中立派』としての価値を持っているだとか、彼らを産み出した神がディフェイクセルム神であるだとか、諸説は様々で、本人たちもよくわかっていないようだった。

 しかし、理由が明らかではないとはいえ、ディフェイクセルム神に対して敬意を払っているのは、事実だ。

 つまり、ディフェイクセルム派は、セディウム教信者でありながら、闘争意識が極端に少ない、希少な存在だと言える。

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