ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.153 )
日時: 2021/06/05 22:27
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: 7WA3pLQ0)

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「六年前? そんなに長い付き合いなのか?」
「六年は、長くない」

 菜草さんの言葉に、日向がすかさず言い返した。
 確かに、おれからすれば六年なんてあっという間だ。何せ、何百何千という単位の時を生きるのだから。
 天陽族である日向はそこまで長くは生きないが、それでも、種族としての平均寿命は三百年。単純に計算すれば、六年は人生の約五十分の一。

 そのことは菜草さんもわかっていたのだろう。ぐっと言葉に詰まった。
 そしてさらにそのことに気づいた日向が、「じゃあなんで言ったんだ」とでも言わんばかりに冷ややかな目を向けていた。

「それもそうだな」

 菜草さんはごほんと咳をして、改めて姿勢を正した。

「ひな」
「嫌」

 菜草さんが言葉を開いた一秒後に、日向が言った。

「まだなにも」
「どうせ」

 吐き捨てるような、声。

「龍馬と関わるなだとか、そういったことでしょう?」

 だと、思ったけど。

 違った。

 声のトーンは明るく、弾むようで。

 日向は机に右腕の肘を付け、手のひらに顎をのせた。
 その顔にはうっすらと笑みを浮かべて。

 おれはそれを見て、ゾクリと寒気がした。

 いや、おれだけじゃない。

 朝日くんも菜草さんも、顔を青くして息をのんでいる。

「ね? おじいちゃん」

 狂気を隠したような、無邪気を装った笑顔で、日向は、小首をかしげた。

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