ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.164 )
日時: 2022/05/30 06:39
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: wtNNRlal)

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「ただいまー」
「おかえりニャ、ましろ!」
「おかえりなさい」

 ドアを開けると、キドとモナが出迎えてくれた。

「ただいま」

 いつものことなのに、それがなんだかうれしくて。
 わたしはわらって、もう一度同じ言葉を繰り返した。

「今日は学校どうだった?」

 家に入って荷物を片付けたり着替えをしたりしていると、モナが普段通りに話しかけてきた。
 キドはいない。キドは一応男の子だからって、モナが追い出している。

「んー」

 なにかあったかなあ?

「あ、そうだ」

 あっ! 心の中で言ったつもりだったのに。
 少し恥ずかしくなり、ちら、とモナを見てみたけど、モナは顔色一つ変えずにわたしを見て、「ん?」と首を傾げた。
 なのでわたしは首を横に振って、「なんでもない」と言ったあと、思い出したことをモナに話した。

「あのね、花園さんって人のこと、前に話したでしょう? 覚えてる?」

 言った瞬間、しまった、と思った。
 モナの顔が、花園さんの名前を出した途端に、すごく怖くなったのだ。

「以前、ましろに酷いことをしたグループの一人でしょう? 忘れるわけないじゃない」

 わたしは慌てて身振り手振りで訴えた。

「そ、それはもういいんだよ! わたしが勘違いしてただけなんだし……」

 友達になれたと思ってた。初めての友達が出来たと思ってた。
 壁は確かに感じていたけど。それでも。

 でも。

「勘違いしたわたしが悪いの。花園さんたちは何も悪くない。
 むしろありがたいよ。あのまま勘違いしてても、あとが辛いだけだもの」

 それに。

 一瞬頭によぎった考えに、自分が怖くなった。

「それにね、モナ。あのね」

 怖いけど、ううん、だからこそ。モナに聞いてほしかった。
 吐き出したかった。自分の中のどす黒い『なにか』を。

「花園さんが人殺しだって知って、わたし、人殺しと一緒にいたんだって思うと、なんだか自分まで犯罪者になったような気がしてね」

 わたしが何を言いたいのか、モナはすぐに察してくれたようだった。

「スナタさんがあの人たちと縁を切る道を示してくれた時に、人との縁を切るのがすごく辛いのに、それ以上にほっとしてたことに、あとから気づいたの。
 あれだけ望んだ友達と、友達だと思ってた人たちと別れられて、ほっとしたの」

 モナは何も言わない。

「人殺しが友達なんて、心の底からね、嫌だってね、思っちゃったの。そうやって思う自分がすごく嫌でね。頭の中がぐちゃぐちゃで。それで、もうあの場にいたくなくて、帰ってきちゃったの」

 あの場にいなかったモナには、わたしの不足だらけの言葉は理解するのに時間がかかるのだろう。

「わたしが、わたしが、花園さんたちから逃げたの」

 すり、と、足に温かな感触が伝わった。

「大丈夫。私たちは真白の味方よ。真白は何も悪くないわ」
「うん……」
「犯罪者なんかと、親殺しの大罪を犯したそんな奴と、関わる必要なんかない。真白は正しいわ」
「……うん」

 うん。そうだよね。
 でもね、モナ。わたしね。

 やっぱり、友達が欲しい。
 花園さんと話をしたい。人殺しだなんて、きっとなにかの間違いだから。

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