ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.173 )
日時: 2021/10/03 19:17
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: OypUyKao)

 19

 ガチャリ

 わたしの家には、鍵がついていない。
 なににも妨げることなく回されたドアノブによって、ドアはいとも容易く開いた。

「真白!」

 モナの声が、遠くに聞こえる。

 ばさっ

 わたしの目の前を、黒い何かが、布が擦れるような音を立てて通り過ぎた。

 頭がぼんやりとしていたから、それが服であることに気づくのが、少し遅れた。
 どうやらそれは、ローブらしい。

 ローブを着ている人は、わたしのお母さんらしき人の顔を片手で覆い、今まさに地面に打ち付けようとしているところだった。

 それはまるでスローモーションのように見えた。

 おそらく飛びかかったのであろう、ローブの人の体は浮いていて、自分の体重を全て女性の頭にかけているようだった。

 女性の足が地面から離れた。高そうでいて汚れたドレスの裾が、ふわりと広がった。

 ガッ

 鈍い音を立てて、女性の頭が地面についた。
 わたしと同じ藍色の、ぼさぼさにまとめられてすらいない髪から、どす黒い血が漏れた。

 ローブの人は女性に馬乗りになり、顔を抑えている右手の反対、左手を大きく、しかし必要最低限に振りかざし、肘を思いっきり女性の胴体の中心あたりに叩きつけた。

 バキャッ

 嫌な音がした。
 骨が折れる音だと、直感でわかった。

「おわった」

 面倒くさそうな声を出して、ローブの人が誰かに話しかけた。
 誰に話しているんだろう。誰もそばにはいないのに。

 そう思ってローブの人の周りを観察してみると、キドがいた。
 そっか、キドが呼んできてくれたんだ。

「あの、あの、まだ真白が魔法にかかったままなのニャ」

 普段聞かないような、遠慮がちなキドの声がした。

 ローブの人は、何も言わない。

「だから、助けて欲しい! のニャ」

 ローブの人は、何も言わない。
 ただし、わたしの方に、静かに歩み寄った。

 何も言わない。
 ローブの人はわたしの顔にその手をかざして、

 パチン

 綺麗な音を鳴らした。

 その瞬間、モヤがかかっていたような頭と視界が、急にクリアになった。
 そして同時に、そのローブの人の顔を、しっかりと認識できるようになった。

 それが誰なのかわかった途端に、わたしは目を見開いたのを自覚した。

「は、花園さん?」

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