ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.176 )
- 日時: 2021/06/23 06:59
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: xIyfMsXL)
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『へえ、大変だったんだな』
夕方の散歩から帰ってきたナギーが、他人事のように言った。まあ、他人事なんだけど。
「大変なんてものじゃないよ!
いや、わたしはただ操られてただけ、だけど」
言っているとなんだか申し訳なくなって、わたしはうつむいた。
『で? その女はどうしたんだ? 外に血の匂いはしてたけど、特になんにもなかったぞ』
わたしは顔を上げて、頷いた。
「村の人に来てもらって、村に運んでもらったの。おじさんたち、『俺たちに任せろ』って言ってたから、もう大丈夫、と思う」
来てくれたおじさんたちは、女性の悲惨な有様にギョッとしていた。
でも、女性を攻撃したのは誰なんだ、とか、そういったことは訊かれなかった。「魔物にでも襲われたんだろう、気の毒に」って、誰かが言っていたから、みんな、そういう風に勘違いしたんだと思う。
『血はどうしたんだ?』
「見えないように埋めたの」
『ふうん』
ナギーはなにかを考えているらしく、腕を組んで、何も無い空間を見ていた。
『で、花園日向は、真白の【伏せ札】を解いたんだよな?』
「う、うん」
いつになく真剣な表情で、ナギーがわたしを見た。
『真白にかけられていた魔法は、かなり昔の、古代に近い時代の魔法だ。真白が【伏せ札】をされたのは、おそらく生まれてすぐ。
真白が、親によって捨てられたときだ。
それだけ長い時間効力を保ち続ける魔法を無詠唱で解くなんて、そいつは……』
え?
ナギーの言葉は、わたしが以前から【伏せ札】をされていたことを知っていながら黙っていたことを知らせるものだったけれど、それを無意識に無視してしまうほどの衝撃的な事実が、わたしを襲った。
「ちょっと、ナギー!」
「急に何言うニャ!」
すぐさまふたりが怒りの声を上げる。
『は? まだこいつに話してなかったのかよ。
おい、真白。お前とばあさんに血の繋がりはない。ばあさんに家族はない。親しい友人もいない。
よって、誰かからお前を預かっているという訳でもない。
お前は実の家族に捨てられてるんだよ』
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