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ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.182 )
- 日時: 2021/06/27 16:46
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: a0tKrw1x)
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時計を見ると、時刻は八時に迫っていた。花園さんほどではないにしろ、登校が早い人は、そろそろ教室に着き始める時間帯だ。
そして噂によると、笹木野さんはその人たちの中でも比較的早い。理由はもちろん、『花園さんに会いたい』からなんだとか。毎朝早いわけではないけれど、その傾向は強いらしい。
笹木野さんは、それほどまでに花園さんが好きで。花園さんは、それほどまでに笹木野さんに好かれていて。
なんで。
「言わないならいい」
わたしが現実逃避をしてしまっていたことを、笹木野さんは、わたしが回答を拒否したと受け取ったようだ。
「とりあえず、どいて」
さすがに突き飛ばしはしないものの、そのギリギリの範囲の力で笹木野さんはわたしの身体を押しのけた。
「ひゃあっ」
わたしの体幹が悪いのも考慮してくれたのか、少しバランスは崩したけど、倒れるまでには至らなかった。
笹木野さんはわたしのことなど見もしないで、すぐに花園さんに声を掛けた。
やっぱり、今まで優しかったのは、優しいふりだったんだ。
やっぱり、わたしには、だれも。
「日向、移動出来るか? 人が少ないうちに、早めに休憩出来る場所に行こう」
花園さんはなにも言わない。いつもの『無視』ではなく、『返事をする余裕もない』ような、そんな感じがした。
無言のまま立ち上がり、顔を下に向け、教室を出ようと促す笹木野さんに続く。
「ごめん、なさい」
その言葉は、当然わたしに向けられた言葉なんてはずがなく。
「気にするな」
声を掛けられた本人は、ぽんぽんと優しく、左手で花園さんの頭を撫でた。
なんで。なんで。
どうして、わたしには、だれもいないの。
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