ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.187 )
- 日時: 2021/07/02 18:10
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: JSwWcgga)
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『でもさ、満更でもなさそうだったよ』
「どこが?!」
晩ご飯も終わりお風呂にも入って歯磨きも終えて、さあ寝るぞといったところで、ナギーに放課後の話を蒸し返された。
『ていうのは冗談で』
冗談を言っていた割には至極真面目な顔をして、ナギーがわたしを見た。
『あいつには、気をつけた方がいいと思う。これはぼくの勘だけど、あいつからは、何か嫌な気配がした。
いや、それともうひとつ、ぼくの知っている『何か』の気配もあった。それについても気になる』
「なにか?」
ナギーは不思議な精霊で、わたしどころか、モナの知らないことも沢山知っていたりする。長年一緒にいるけれど、性格もうまくつかめない。意地悪になったり優しくなったり、厳しくなったり甘くなったり。
わたしとナギーの契約は、『仮契約』。それも授業で組んだわけではなく、うーん、いつ初めて結んだんだっけ? とにかく、ずっと昔から『仮契約』を更新し続けている。何度か先生から『本契約』を結ばないのかと尋ねられたことがあるけど、答えはいつもノーだった。
ナギーは、理由は教えてくれない、というか、本人も忘れてしまったようだけれど、『本契約』が出来ないらしい。
ナギーは他の〈アンファン〉とは違い自分が誕生した当時のことを覚えているそうだ。つまり、仮契約の期間が切れ、しばらく時間が空いたとしても、思い出を忘れることがない。しかし、誕生ははるか昔のことで、当時のことはほとんど思い出せないそうだ。記憶力がもたなかったらしい。いつか忘れてしまうのは、精霊も人間も、一緒なんだな。もしかしたら、神様もそうなのかも。
……寂しいな。
『もしかしたら、ぼくの過去に関係しているのかもしれない。確かに感じたことのある気配だった。でも、いまはそのことはいい。いまさら思い出したいなんて思わないしね。
とにかく、真白は彼に気をつけること。また会いに来るみたいなことを言っていたから、そのときに用心して。わかった?』
わたしは首をひねった。
「うーん。ナギーの言っていることはなんとなくわかったけど、具体的に、わたしはどうしたらいいの?」
『そうだね、とりあえず、自分の情報を相手に与えないこと。次会ったときに、次回の接触を図る挙動が見えたら、もう会わないって遠回しに伝えて。それが無理でも、会う回数を減らしたり、会う時々の間隔をなるべく大きくして』
そんな器用なことがわたしに出来るとでも思ってるのかな。いや、出来る限り頑張るけどね。
『ぼくも、なるべく真白に付いているようにするから』
そっか。それなら、安心かな。今日のナギーは協力的だ。
わたしは頷いて、わかったと示した。
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