ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.188 )
- 日時: 2021/07/03 10:40
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: JSwWcgga)
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「せんぱーい!」
朝日くんとの再会はなんと、翌日のことだった。いまは登校中で、時間としては朝なので、初めて会ってから半日と数時間しか経っていない。
朝日くんはわたしよりも後ろを飛んでいるらしく、本人の姿は見えない。後ろを見るなんて高度な技術はわたしには不可能で、かと言って無視するわけにもいかず、わたしは目立たないくらいに声を張り上げた。
「おはようございます! ごめんなさい、わたし後ろ見れないんです!!」
前を向かれたまま後ろに向けて声を届けられると、聞く側からするととても聞き取り辛い。この場合もそうらしく、朝日くんの返事は数秒遅れた。
「わかりました」
「きゃあっ!」
朝日くんの声が、わたしの真隣で聞こえた。さっきの遠くから聞こえるような響きながら伝わる声ではなく、よりクリアで聞き取りやすく、近距離ゆえの大きな声。
わたしはびっくりして、バランスを崩した。わたしの体を支えていた見えない上向きの力が無くなり、重力に引かれて落ちていく。
わあああああああああああああああああああっっ!!!!!!!!
わたしはあまり高い場所を飛んだりはしない。けれどそれは他の人と比べたらの話であって、地面からは五十メートルは離れている。これは法律で、歩行者などとの事故を防ぐために、飛行する時は地上から少なくとも五十メートルは上空を飛ぶように定められているのだ。
とはいえわたしは着陸が苦手なのでいつもバケガクよりも手前で降りている。でも、その位置はもっと前なの! もう少し先なの!
恐怖で声が出なかった。ああ、モナとキドが見える。あれ、わたしもいる。いまより小さいかな。これはきっと走馬灯。
「空を水とし、『浮』の力、対象の者にかかる力を相殺せよ!」
朝日くんが不思議な呪文を唱えると、わたしの体はピタリと止まった。まるで糸に絡まった操り人形のような格好になり、不格好に浮いている。
いまの魔法は、なんだろう? あまり聞いたことがない呪文だった。天陽族が使う【浮遊魔法】なのかな?
花園さんが魔法を使うところは滅多に見ないから、わかんないな。
「驚かせてしまってごめんなさい」
わたしの落下が止まったと同時に急降下し、わたしのほうきを回収してくれた朝日くんが戻ってきた。
わたしは朝日くんに支えられながらほうきに乗り直し、言った。
「あの、とりあえず着陸してもいいですか?」
朝日くんはバツの悪そうな顔をして、それから苦笑し、「わかりました」と答えた。
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