ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.189 )
日時: 2021/07/03 21:23
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: 6MRlB86t)

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 校門までは、まだそれなりに距離がある。時間に余裕はある。わたしたちは一緒に道を歩いていた。

「いや、ほんとに、すみませんでした。驚かせたつもりはなかったんです」

 しゅんとしてうつむきながら、朝日くんはわたしより少し後ろを歩いている。

「いいですよ、わたしも気にしてませんから」

 わたしがそう言うと、朝日くんはパッと顔を上げた。その表情は純粋な笑顔で、わたしはうっかり、朝日くんが花園さんの弟であるということや、昨晩のナギーの注意を忘れそうになる。

「あの、さっきの魔法ってなんですか? 聞いたことがない呪文だったような気がして」

 わたしだってわたしなりに魔法の努力はしている。魔法の種類はその土地や種族によって無数に分けられ、呪文も魔法のタイプも全然違ってくる。モナやナギーに協力してもらって、色んな魔法を勉強してきた。なかなかわたしに合う魔法には出会えないけれど。
 だけど、さっき朝日くんが唱えた魔法に覚えはなかった。わたしがただ忘れている可能性もあるけど。

「さっきの魔法?
 ああ、【浮遊魔法】のことですか?」

 朝日くんは笑みを浮かべたまま、楽しそうに説明してくれた。

「あれは、姉の魔法なんです。
 本来、【浮遊魔法】というのは対象の中に自分の魔力を込めて行う魔法なんですけど、姉はたまに対象物を破裂させてしまうので、別の方法で【浮遊魔法】を行っているんです」

 別の方法?

「でも、あんな呪文聞いたことありません」

 すると朝日くんはにまっと笑った。口元を緩めて、自慢げに語る。

「あれは姉のオリジナル魔法です。姉は自分で魔法を作ることが出来るんですよ」

 魔法を、作る?!

「なぜ姉がⅤグループなのか、理解できませんね。本来ならばⅠグループであるべきなのに。まあ、姉が自分からⅤグループに入るように仕向けたのかもしれませんけどね」
「そんなことが出来るんですか? 魔法を作るなんて」

 魔法を作るには、魔法発動の原理とか、そういう難しいことをすごく深い部分まで知らないと出来ないって聞いたことがある。花園さんには、それが出来るっていうの?

「はい! 姉はすごいんですよ!」

 そう言う朝日くんの表情は本当に嬉しそうで。

 そんな顔をしてくれる家族がいる花園さんを、少しだけ、羨ましいと思ってしまった。

「あの、もし先輩さえ良ければ、敬語を外して貰えませんか? ボクは年はともかく下級生ですので」

 以前わたしが心の中で思ったようなことを言って、朝日くんが提案した。

 えっ。

 わたしは家族を除いて、だれかにタメ口で話したことがない。正直に言って、会ってまだ日の浅い(というか一日も経っていない)人に急に砕けて接するのは抵抗がある。
 でも。

「わかった。じゃあ、そうさせてもらうね」

 Ⅴグループであるわたしにも、先輩だからと敬意を払ってくれる朝日くんに、わたしは好意を持っていた。否、持ってしまっていた。

『ちょっと、真白』

 ナギーがわたしの髪をぐいっと引っ張った。

『なに仲良さそうにしてるの。昨日話したばかりだろ』

 うっ、そうだったそうだった。
 でも、人懐こそうな雰囲気の朝日くんは、つい気を許してしまう力があるのだ。不可抗力なのだ。うん。

『心の中で言い訳しても駄目』

 心の中を読まないで。

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