ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.192 )
日時: 2021/07/05 13:30
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: JSwWcgga)

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「第一館まで足を運んでくださって、ありがとうございます」

 そう言って朝日くんは、首を傾げる。

「もしかして先輩、学食なんですか? だったら食堂で待ち合わせた方が良かったですね」

 え、なんのこと?
 わたしは首をひねったあと、ああ、と頷いた。

「ちがうよ。わたしのお昼ご飯はこれ」

 わたしは右手に包んでいた紙を朝日くんに見せた。

「これね、すごいんだよ。飴玉なんだけどね、すぐにお腹がふくれるんだよ」

 包み紙を開くと、中から白色の飴玉が姿を現す。透明感はなく、艶はあれど、色は濁っている。
 朝日くんはなぜか顔をしかめて、わたしに言った。

「お腹がふくれるのは飴玉に込められた魔力が脳に作用して満腹中枢を刺激するからですよね。あまり体にいいとは言えません」

 まんぷくちゅうすう?
 わたしはこの飴玉を、村の小さなギルドでよく貰ったり買ったりしている。そのときの注意事項にそんな言葉が出てきたような気がする。食べ過ぎは良くないとだけ理解したけど。

「もしかして、知らないんですか? それはあくまで非常時に満腹感を紛らわせるために使うもので、常用していいものじゃないんですよ。食事はきちんと摂って、栄養を補給しないと、冗談抜きで死にますよ」

 厳しい顔をして、首を傾げていたわたしに言う。心配してくれてるのかな。

「だい」
「大丈夫とか、通じませんからね」

 わたしと朝日くんの声が重なった。
 それから朝日くんは顎に手を当てて、ぶつぶつと呟く。

「姉ちゃんは自覚がある分まだマシなのか? いや、自覚がないということはまだ救いがあるのか。姉ちゃんは危険性を理解した上で使ってたからな」

 姉ちゃん? 姉ちゃんって、花園さんのことだよね? 花園さんも食べるんだ、これ。でも、そんなところ見たことないけどな。あーでも、確かに使ってそう。

「姉もよく、その飴をなめてました。姉は他の人とは何かが違うので長期間の使用も平気でしたが、危ないと感じたら通常の食事を摂っていました」

 ……。
 言われなくったって、わかってるよ。でも、出来ないんだもん。仕方ないじゃない。お金が無いから、たまにしかお昼は食べられないの。

「だから、明日からボク、先輩の分のお弁当作って持ってきます!」
「へ?」
『は?』

 朝日くんは瞳をきらきらさせて、わたしに言った。
 え、なんで? どうしてそんなことをしてくれるの?

「普段からたまに夕食作ったり、お弁当を自分で作ったりしてますので、食べられるくらいの料理なら作れますよ!」
「え、えっと」
『真白、止めておけ。何を盛られるかわからないぞ』

 ナギーがわたしに言う。
 盛られる? なにを?
 でも、流石に悪いよね。断ろう。

「ごめんね、そこまでしてもらうわけにはいかないや」

 朝日くんは、何故か不思議そうな顔をして、それから、頷いた。

「わかりました」

 そして、申し訳なさを滲ませた顔で笑う。

「急に変なことを言ってしまってすみません」

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