ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.193 )
- 日時: 2021/07/06 23:14
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: zvgOH9ns)
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朝日くんはお弁当を食べながら、わたしの話を聞いてくれていた。好きなこととか嫌いなこととか。ナギーに言われたからあまり詳しい自分のことは言わなかったけれど。でも、こういうのって久しぶりな気がする。
「そういえば、先輩は普段どこでお昼を食べているんですか?」
「うーん、わたしは飴をなめるだけだから、教室を出たりとかはしないかな。
あ、でも、こうやって外で食べるのもいいなって、今日思ったよ」
第一館の屋上だから人が多いのかなと思っていたけれど、そんなことは無かった。まばらにいることは確かだけど、どちらかというと四季の木の周りの方が人が多い。
静かに風に吹かれるのも、いいなって思った。
「よかったです!」
お弁当を食べ終わったらしく、朝日くんはお弁当箱を片付け始めた。
この時間は、もうすぐ、終わるんだ。
「では、また会えたら」
そう言って朝日くんはベンチから腰を浮かせて、わたしに笑いかけた。
あれ、次を誘ってはくれないんだ。
そう思ってわたしは、『何か』を口にしようとした。それが何なのか、じぶんでもわからなかった。
なに、期待してるの。へんな夢はみちゃだめって、わかっていることじゃない。
わたしは、誰の『トクベツ』にもなれないんだから。
『何か』を喉に押し込んで、別の言葉を発する。
「うん、またね」
わたしはさみしい気持ちをひたすらに抑えて、消えていく朝日くんの体を見つめていた。
やがて姿が見えなくなって、ナギーは言った。
『とりあえず、次の約束はしなかったな』
「そう、だね」
『ん? どうした、いいことじゃないか。自衛は自分にしか出来ないんだぞ?』
「う、ん」
朝日くんとはいつもいる館もクラスもグループも違う。もしかしたら、もう会えないのかもしれない。会えたとしても、朝日くんはわたしに話しかけてくれるのかな。
どうしてだか、わたしは自分の心臓が縮んでいくような錯覚を覚えた。
針で心臓を中から突かれるような、そんな、不快な痛みとともに。
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