ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.194 )
日時: 2021/07/07 20:40
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: Cb0oSIti)

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 あれから数日経った。予想通り、全然朝日くんには会えていない。そして何故か、ナギーがいなくなった。こういうことはたまにあるから心配してはいないけど、ナギーの忠告を無視してしまったわたしに呆れちゃったのかなとか考えてしまう。

 でも。

 ナギーがいないから、朝日くんと会うことを否定する人がいなくなった。
 会いに、行こうかな。

 って、なに考えてるの! わたしに呆れちゃったんだったら、わたしは尚更ナギーとの約束を守らないといけないのに。

「それ、ほんとなのか?」

 わたしの後ろで、笹木野さんの声がした。どうやら、花園さんとなにかを話しているようだ。

「うん」

 教室は他の人たちの声で騒がしいけれど、わたしと花園さんの席は比較的近い。辛うじて声を拾うくらいなら、なんとかできる。

「やっぱり、私が悪い影響を与えてしまっているんだと思う」
「日向だけが原因じゃないだろ」
「そうかもしれない。でも、私はあの子に近いから」

 あの子? あの子って、誰だろ。
 朝日くん、かな。

 朝日くんって、花園さんの弟なんだよね。花園さんは、朝日くんのお姉さんなんだよね。

 ……。
__________

 その日のお昼休み。わたしは第一館の屋上に来ていた。前に来た時よりも冷えた風に身を震わせ、周りを見回す。人はいる。でも、朝日くんはいない。

 わたし、なにしてるんだろ、どうしちゃったんだろ。何しに来たんだろう。気づいたらここにいた。朝日くんを探しに来たの? なんのために?

 いいや、帰ろう。
 そう思って、わたしは足を後ろに向けた。

「あ、先輩!!」
「うわあああっ!」

 真後ろにいた朝日くんに驚き、わたしはバランスを崩して体が後ろに引かれた。
 すかさず朝日くんが左手を伸ばして、わたしの右手をつかむ。そのままぐっと体を引き寄せられ、わたしは転ばずに済んだ。結構、力が強いんだ。

「また驚かせてしまいましたね」

 えへへ、と頭をかきながらはにかむ。

 久しぶり、と言っても一週間ぶりのその表情を見て、わたしは名前のわからない『何か』が心の中に湧き上がった。

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