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ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.196 )
- 日時: 2021/07/09 22:02
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: 9AGFDH0G)
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「ああ、そうだ!」
お弁当を食べ終わってまたわたしが話していると、朝日くんは急に大きな声を出した。どうしたのとわたしが訊くよりも先に、がさごそと自分の鞄を探り始める。
「あの時のお詫び、まだしてませんでしたよね」
お詫び?
あ、初めてあった日にぶつかったことかな。あんなの、もういいのに。
朝日くんは小さな箱を取り出した。蓋付きの箱で、その蓋は下の箱をすっぽりと包むタイプの大きなものだった。
「会って間もないのにこれを渡すのは失礼かなと思ったんですけど、先輩さえ良ければ」
そう言いながら手渡された箱を、わたしはおそるおそる受け取った。箱は木製で、滑らかで暖かな感触が心地良かった。重量はあまりないようで軽い。箱の大きさは片手に乗せても余るくらいなので、中身も小さな物なのだろう。
「いま開けてもいいの?」
「もちろんです」
その答えを聞いて、わたしは蓋を開けた。構造上少し開けにくかったけれど何とかして蓋を外し、中を見る。
これは、ペンダントかな? 細い、縄のような紐に、硬い鱗が一つ通されている。鱗は青く光る漆黒で、表面はつるりとしていた。厚みは五ミリよりもやや大きいと思われるので、魚の鱗ではない、と思う。
「女性に贈る物ではなかったですね」
わたしがなんの反応も示さなかったことに、朝日くんはわたしがペンダントを気に入らなかったのだと解釈したようだ。
わたしは慌てて否定する。
「そ、そんなこと、ないよ! わたしは、うれしいよ!」
朝日くんから何かを貰えたということ自体が、すごく嬉しいの。
そんなこと恥ずかしくて言えないけど、でも、これが本心。心の底から嬉しい。
「大事にするね、ありがとう」
朝日くんは安心したように笑った。
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