ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.198 )
- 日時: 2021/07/10 21:59
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: 4QFpS9Ez)
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それからというもの、わたしたちはほぼ毎日お昼に一緒にいるようになった。朝日くんは敬語は外れないものの、話し方や声のトーンが、かなり打ち解けたものになっている。
「え、朝日くん、入学試験の筆記テスト、クラスで五十位より上だったの?!」
以前はわたしばかり話していたけれど、最近になって、朝日くんも自分のことを話してくれるようになっていた。
「はい。そもそもボクはバケガクに入学することを祖父母から反対されていたので、前に通っていた学校の定期試験とバケガクの入学試験で成績上位者に入れなかったら入学を認めないって言われて」
反対されていたの? どうしてだろう。確かにバケガクは世間一般から見て蔑まれている。でも世界的に有名な生徒や卒業生だっているし、なにより入学出来る生徒は限られている。なんだかすごい先生も集まっているから、教育環境は整っているらしいのに。
「姉が、いますから」
わたしが疑問に思っていることを察したのか、朝日くんは寂しげに話してくれた。
「祖父母は、特に祖母は、姉のことを毛嫌いしていて、姉もボクを遠ざけようとしていて、『あの事件』から一度もあったことがなかったんです。ボクは会いたかったんですけどね」
朝日くんは、ぎこちなく笑う。その表情にはいつになく憂愁の影が落ちていた。
「お姉さんのことが好きなんだね」
わたしはなにを言うべきなのかわからず、でもなにかを言った方がいい気がして、そう言った。
「姉は、すごい人なんです。本人は、隠しているみたいですけど」
朝日くんは、ぐしゃりとズボンにしわを作った。その声はなんだか悔しげで、苦しげだった。
花園さんが何かを隠しているというのは、なんとなく察しがついていた。春にあった《サバイバル》でダンジョンに潜ったときも、わたしと同じⅤグループとは思えないくらい落ち着いていたりして、なんだか、ダンジョンに慣れているような印象を受けた。花園さんはあまり自分のことを話さない。わたしなんかには尚更だ。
「す、すみません。雰囲気悪くしちゃって」
いつもよりも元気の無い、無理して作ったような笑顔を浮かべて、朝日くんは硬い声を発した。それを見て、わたしはなぜだか胸が痛んだ。
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