ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.199 )
日時: 2021/07/11 11:02
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: 4QFpS9Ez)

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「大丈夫だよ。気にしないで?」

 朝日くんのような綺麗な笑みは浮かべられないけれど、それでもわたしなりに、精一杯の笑顔を見せた。

「わたしは話してくれて嬉しいよ。いつもわたしが話してばかりだもん。無理も良くないし」

 そう。無理は良くない。ストレスを溜め込んでも、良いことなんて何も無い。自己嫌悪に陥って、抜け出せなくなるだけだ。
 だから、もっと話して欲しい。

「わたしで良ければ聞くよ。もちろん、朝日くんが良ければだけど」

 そう言ったはいいけれど、朝日くんの顔に、先程までの明るい笑みが戻ることは無かった。

「ふー」

 その代わりに大きなため息を吐いて、目に光を取り戻した。

「ありがとうございます! 優しいんですね、先輩」

 知ってましたけど、と笑って、手早く弁当箱をしまった。

「今日は調子が悪いみたいなので、これで失礼しますね。ありがとうございました」
「あ、うん、じゃあね」

 そう言ってわたしは手を振った。少し、寂しいなと思ってしまった。
 その時だった。

「まーしーろー!」

 久しぶりに聞いた、スナタさんの声が耳に飛び込んだ。声がした方向を振り向くと、長く淡い桃色の髪を秋の風にたなびかせて、大きく手を振っていた。小動物のように近くに駆け寄り、ふにゃりと笑う。

「真白もここでご飯食べてたんだね。ここ、お気に入りだったりするの?」

 急に会話が始まって戸惑ったわたしは、ほとんど無意識で首を横に振った。

「えっと、朝日くんに誘われて」
「朝日くん?」

 そこで初めて朝日くんに気づいたようで、「あっ!」と声を上げた。

「ひなたー! この子って、日向の弟くんじゃない?」

 すると、腰を浮かせてわたしに背を向けていた朝日くんは首を痛める勢いで振り向いた。
 そしてスナタさんの目線の先を追い、花園さんの姿を見つけたらしく、直線的に突進した。

「姉ちゃん!」

 花園さんは避けるでもなく優しく受け止め、そのあと自分の体から朝日くんを離した。その表情はあからさまに嫌そうで、朝日くんはむっと頬をふくらませる。

「なんだよその顔! 久しぶりに会えたのに!」
「家でも会ってる」
「学校で会ったのは久しぶりだろ! それに、帰ってこなかったり部屋から出なかったりして、一緒に暮らしてても会えないことの方が多いじゃんか!」
「……」
「こらあっ! 無視するな!」

 花園さんは相変わらずの無表情だけど、雰囲気はとても仲良しで、わたしは二人が姉弟なのだと嫌でも再確認させられた。

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