ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.203 )
- 日時: 2021/07/14 17:15
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: 1.h02N44)
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「真白、調子はどう?」
「もー。大丈夫だってば!」
昨日、胸が痛いとうずくまってからというもの、モナはずっとわたしのことを気にしてくれている。すっかり良くなったと何度も言っているのに。
「学校にだって行けるから! じゃあ、行ってきます!」
わたしはほうきにまたがり、地面を強く蹴った。体がぐんぐん空に近づき、木々のてっぺんより少し高いくらいのところで止まる。いつもなら空に投げ出されてすぐに酔ってしまうのに、今日はそれがない。周りの空気全てがわたしを包み、そして支えているような感覚がする。
すごい。安定して飛ぶって、無詠唱で飛ぶって、こんなに気持ちがいいんだ。
下を見ると、モナがびっくりした顔をしていた。こんなふうにほうきに上手に乗れたのなんて、初めてだもん。わたし自身も驚いている。
「ましろがほうきに乗れてるニャ!」
キドが叫んでいたので、わたしは手を振って見せた。こうやって余裕を見せられたのも、初めてかもしれない。
とにかく気持ちいい。森の緑を視界の端に追いやり、空の青だけを仰ぎ見る。肺に送られる空気はやけに軽く感じられ、秋の涼しい風は寒さではなく爽やかさを与える。
それになにより、この体から溢れるばかりの魔力。魂の奥底に感じる『核』のようなものは、確かな『黒い力』を宿している。このことからこの力は悪魔のものなのだと自覚するけれど、それでもいまは、わたしの力だ。これはわたしが、わたしの手で掴み取ったものなのだ。
ふふ、と、自然に笑みが零れ出る。空の空気と体が同化したような錯覚を覚える。この、神が与えた大自然と一体化するような錯覚を覚える。
『なにやら機嫌が良さそうじゃの』
頭の髄から、色気のある大人の女性の声がした。
当然。むしろこれを感じて気持ちよくならない方がおかしいのよ。わたしは正常よ。
『それでよい』
わたしの声につられたのか、それともまったく別の理由か。その響く声が上機嫌だった理由は、わたしはてんで興味がなかった。
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