ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.204 )
日時: 2021/07/16 20:39
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: EjFgzOZO)

 2

「そういえばさ」
「はい?」

 いまは昼休み。いつものように朝日くんとお昼を一緒にしている。他愛もない話をする中で、わたしはふと、思い出したことを口にした。

「この世界も、もうすぐで滅ぶんだよね」

 それはほとんど独り言のようなものだった。ぽろりと零れたその言葉は、少しの沈黙を生み出す。
 けれど朝日くんは無視することなく、言葉を返してくれた。

「そう、ですね。あと二年と少しでしょうか」

 悲しそうでも楽しそうでもなく、かと言って虚しそうでも淡々としている訳でもない、不思議な声色で朝日くんは言った。

「秋も終わりかけてるもんね」

 そう。つい最近まで心地よかった秋の空気も、 いまでは時折寒気を感じさせる。バケガクを見下ろす『四季の木』も紅葉を散らし、幹はだんだん白銀に染まりつつある。

「でも、不思議。いまこの瞬間も、誰かがうまれてきてるんだよね、きっと。今日生まれても、二年と少ししか生きられないのに」

 世界が滅んだあと、わたしたちがどうなっているかなんて誰にもわからない。もしかしたら生き残っているかもしれないし、死んでいるかもしれない。だけど少なくとも、世界が滅ぶような出来事が起これば、大半の赤ん坊は死んでしまうだろう。

「わかりませんよ。教会は勇者を召喚するつもりだそうです。世界は滅ばないかもしれません」

 救いに縋るような声とはかけ離れた、先程と同じようになにを思っているのかわからない声音で朝日くんは言う。

「そもそも、いるかもわからない神が定めた『世界の規則』を信じている方が、ボクには理解できません。確かに過去の、Aの時代の文献はほとんど残っていませんが、だからこそ、Aの時代が『滅んだ時代』だなんて証拠はどこにもないですよね?」
「たしかに」

 わたしは素直に同意の意を示した。神様なんていない。それはわたしもよくわかっている。本当に世界が滅ぶなんてことすら疑わしい。

 でも。

「もし滅んだら、わたしたちはどうなっちゃうんだろうね」

 わたしはなにも出来ていない。本当の家族にも会えていないし、なにも手に入れていない。このまま死んでいくのは、あまりに『わたしが可哀想だ』。

 3 >>205