ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも…… ( No.21 )
日時: 2021/04/17 08:14
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: wECdwwEx)

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「おーきーろー!」
 耳元で大声を出され、私は、目を開けた。
「なに」
「なにじゃないだろ。起きろよ、朝だぞ」
 私の視界いっぱいに、朝日の顔が映る。太陽の光を浴びて、金色の髪はキラキラと光っている。桃色の瞳も光が宿り、きれいだと思う。
 私とは違うな。
「勝手に入らないで」
 朝日はいつも私の部屋に入ってくる。その度に注意しているのに、聞く耳すら朝日は持たない。
「さっさと起きてこないのが悪いんだろ!」
 朝日はむっとした顔で言った。
「はいはい。すぐに降りるよ」
 私は立ち上がると、朝日の頭をグシャグシャとかき撫でた。
「おい、やめろって」
「聞こえない」
 朝日だって私の部屋に入ってきた。おあいこだ。
「絶対聞こえてる……」
 ぶつぶつと文句を言いながら、朝日は部屋を出た。
(なにか、忘れてるような?)
 私はなにか違和感を感じた。いつもと変わらない日常。
 どこか、作り物めいている。
「気のせいか」
 私は首を振った。さっさと制服に着替えて、リビングへ行く。

 ガチャッ

「おはよう、母さん」
 返事はない。黙々と朝食を食べ続けている。
 かつては、綺麗なはずだった。前に、父さんに、昔画家に描いて描いてもらったという絵を見せてもらったことがある。
 艶のあった黒髪は無造作に低い位置で一つにまとめられ、ろくに手入れもされずにボサボサ。純粋な光を放っていた可愛らしさを感じさせていた青い瞳は、メガネの奥で、どんよりと濁っていた。母さんはいわゆる童顔だったらしく、絵の中では少女のような可憐さを感じさせていたが、その分、実際以上に老けてしまっていると感じる。
 衰弱を感じるのは、なにも顔だけじゃない。体も、そうだ。母さんは確かに、細身ではあった。しかしそれは、健康的な痩せ型だった。こんな、ギリギリまで肉を削ったような、皮と骨だけしか無い体ではなかった。決して。
「父さんは?」
「もう仕事へ行った。たまには見送りしてあげなよ。さみしがってたぜ」
 朝日がトーストをかじりながら言った。
「考えとく」
 冷蔵庫から食パンやらバターやらを取り出しながら私は言う。
「それ、姉ちゃんの性格からしてやる気ねえよな」
「さあね」
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「おーい、日向?」
 体を揺すぶられる。
「なに」
「お。起きたな、着いたぞ。日向がこんなに寝るなんて珍しいな」
 ……夢、だったのか。
「うん」

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