ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.210 )
- 日時: 2021/07/19 21:12
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: 5NmcvsDT)
8
『……』
わたしの口から、何か、言葉が漏れた。それはわたしの言葉でありわたしの言葉ではなかった。わたし自身も聞き取れず、そして理解できない言葉。
それはどうやら呪文だったようで、唱え終えると同時に三本の巨大な水柱が教室を貫いた。
どごおんっ!
轟音が学園中に響き渡り、壁に、床に、亀裂が走る。机という机が、椅子という椅子がひっくり返り、いくつかが木っ端微塵に砕けて散った。水柱は下から上の流れをなぞるだけで、水が教室を包むことはなかった。
花園さんは器用に亀裂を避け、しかし逃げることはせず、わたしの目の前に留まっている。何をしているんだろうと思ったけれど、どうでもよかった。
「これ、わたしがやったの……?」
呆然と呟いた。自然に自分の口が弧を描くのを感じる。ここは階層で言えば三階で、わたしは三階分の長さに及び、一枚の床と三枚の天井をぶち抜く威力を持った水柱を出現させたのだ。いや、もしかすると水柱はさらに上空に伸びているかもしれない。わたしの横を流れる水柱はおよそ直径五十センチ。勢いを衰えさせることを知らず、なおその存在感を強めて主張する。
こんなに強力な魔法を放ったのは、初めてのことだ。これだけ魔力を使っているのに、目眩なんかの魔力切れを起こす予兆はない。
『当然じゃ。妾の魔力を使っているのじゃからの』
「わたしの力だ、わたしの!!」
「なんの騒ぎだ!??」
四十路辺りの見た目をした男の先生が入ってきた。えっと、誰だっけ。
ああ、フォード先生だ。今年入ってきたばかりなのに妙にプライドが高くて、嫌いなんだよね。
「これは、どういうことだ?」
わたしの水柱を見て唖然と見上げるその表情は滑稽で、わたしは遠慮なく笑いだした。
「あっはははは!!!」
フォード先生はわたしと花園さんを交互に見た。
「花園! やめろ!」
あれ? 花園さんがやったと思ってるの? なんで?
わたしにはこんなの、出来ないと思ってるんだ。花園さんよりも下だって思ってるんだ。へえ。
わたしは右の手のひらをフォード先生に向ける。
『……』
また、あの訳の分からない呪文を唱えると、 今度は水柱から大量の水しぶきがとんだ。それらは真っ直ぐにフォード先生に向かっていき、無数の傷を作る。
フォード先生は慌てて教室から出て壁に隠れるが、水しぶきは壁なんか余裕で貫通する。わたしはその攻撃を続けながら大きな水の矢を十本作り出し、フォード先生がいるであろう場所に、壁越しに当てずっぽうで打ち込んだ。壁は粉々に崩れ落ち、廊下が剥き出しになった。
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