ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.211 )
日時: 2021/07/20 20:55
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: CWUfn4LZ)

 9

 舞ってしまった砂埃が晴れると、そこにはただ石の瓦礫が積まれているだけだった。しばらく待っても生き物が動く気配はなく、私は首を傾げた。

「いやはや、どうも、やってくれたねえ」

 そう声が聞こえた『あと』に、その人は姿を現した。腰まで届く艶のある黒髪を耳にかけ、つり上がった目は「困ったなあ」とばかりに笑みを浮かべている。その美貌と女性にしては珍しいパンツスタイルが特徴的なその人は、呆れた表情で花園さんを見た。
 いつもの眼鏡は、今日はつけていないらしい。

「これ、どういう状況なのかな?」
「……」

 花園さんはあからさまに目を逸らした。僅かな沈黙が流れた後に、渋々といった調子で答える。

「真白さんが、レヴィアタンと契約した」
「そのようだね」
「わかってたなら聞かないで」
「言質は大事なんだよ」

 至って静かに言い合いをする二人は、完全に私のことを無視していた。そのことがなんだか私を苛立たせる。
 私は鋭い息を吐いて、女性──学園長の周りに青い炎を撒き散らした。
「ん?」
 学園長は顔に疑問符を浮かべていたが、特に何かをしようという気配はない。それに私は違和感を覚えたが、壊してしまえば全て同じだということに気づき、無視した。そしてそのまま、他の三本と同じように巨大な水柱を地下から吹き出させ、炎で囲った部分を学園長ごと貫いた。

 爆音がとどろき、床の一部がガラガラと音をたてて崩れた。

「ふむ、まだ力を使いこなせている訳では無いみたいだね?」

 水柱に呑まれたはずの学園長の声が、私の隣で聞こえた。隣と言ってもすぐ近くではなく、数メートルは離れた距離から聞こえる声だった。
 声の聞こえた先を見ると、学園長は花園さんに話し掛けていた。

「私の【転移魔法】で校内の生徒及び教職員は寮内に居た者も含めて全員、森の向こうの広場に飛ばしてあるから、思う存分暴れてくれ」
 花園さんは無言で学園長を睨んでいたが、すぐにそれを崩した。
「具体的な指示をして」
「真白君を捕らえてこちらに引き渡して、あと学園を修復して欲しい。この水柱はここ以外にも学園中に出現しているんだよ」

 え、そうなの?

 嫌そうな顔をしている花園さんに向けて、学園長はさらに追い打ちをかけた。
「嫌とは言わせないよ。私はただ魔力量が桁外れに多いだけの【基礎魔法】しか使えない大した実力もない魔法使いで、しかも君には貸しがあるんだから」

 貸し?

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