ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.215 )
- 日時: 2021/12/22 20:06
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: 7xmoQBau)
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何かしないと、殺される。えっと、えっと。
『…………!!』
私はまたあの不思議な呪文を唱えた。でも、何も変化がない。
どうして?!
その人は鉄球を叩きつけた。自分よりも少し大きい、光を反射しない重い黒色の鉄球を風船でも扱うかのように軽々と操る。
ぶおんっ
風を斬る音がした。
けれど、それだけだった。それは私に何の危害も与えることは無かった。
私の目の前で、空気は波紋を描いていた。空中に停止した鉄球を中心に、まるで池に石を投げ込んだ時に出来るような、『水面に起こるような波』が揺れていた。
なに、これ。
「チッ」
その人は舌打ちをして、鎖から手を離した。すると鎖は霧散し、空気の揺れも収まった。
「なあ、真白さん」
その人は髪をかきあげた。曇った空の隙間から顔を出した太陽の光に反射し、水色の髪が綺麗に光る。
「お前、殺されても文句言うなよ」
私は、初めて見た。その人──笹木野さんの、本気で怒った表情を。ダンジョンで剣士さん達に怒った時よりも怒ってる。びりびりとした、それでいて静かな熱い空気が伝わる。
……いいな。花園さんには、怒ってくれる人がいるんだもの。羨ましい。
『人間よ、一度降りるぞ。空中戦は不利じゃ。妾はひとまずペンダントに戻る。着地は先程の【吸収】でどうにかせよ!』
【吸収】って、さっきの波紋のこと?
そう質問する暇もなく、私は宙に置いてけぼりにされた。ほんの一瞬前まで学園の上空に悠々と浮いていたレヴィアタンの巨体は消え失せ、代わりにちっぽけな私一人が残された。
「ひゃあああああああああっ!!」
今度こそ落下する。しかも、いまは第三館が崩壊した時よりも高い位置にいる。このまま地面に叩きつけられたら骨も残らない。粉々に砕けちゃう!
笹木野さんは私を追ってきた。空気を蹴るような勢いで私に近づき、そして、魔法を放った。
『【黒雨】』
どろりと血が垂れるような声がぬるりと重く響いた。
無数の十字架が出現し、私に向かって降ってきた。十字架の大きさはまばらで統一感がない。私の全長と同じくらいのものもあれば、針のように小さなものまである。
それらが一斉に降り注ぐ。光を吸い込むような闇色の雨。
『……!』
私はまた呪文を唱えた。着地のことも考えないといけないし、なにより、着地するまでに自分の命があるのかどうかも分からない。
カタカタと歯が揺れて、音がする。体が震える。ちゃんと呪文を唱えられているのかどうかも分からない。
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