ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.216 )
- 日時: 2021/07/23 22:48
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: 8S3KaQGB)
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私の目の前に大量の円が広がった。十字架の先端を中心とした円が、無数に、広範囲に出現する。そしてその円はどんどん増えていく。やがて目の前は静止した十字架に埋め尽くされ、真っ黒に塗り潰される。
私は【吸収】を行った状態を保ち、落下を続けた。
十字架はこれで大丈夫。よかった。〔邪神の子〕と呼ばれている笹木野さんでも、悪魔の力には適わないんだ。よかった。
……。
ちょっと待って、〔邪神の子〕?
私はたった今自分が思い浮かべた言葉に、引っ掛かりを覚えた。
〔邪神の子〕。そんな大層な異名は、そう簡単には付けられない。風の噂で蔑称として呼ばれているということは聞いたことがあるけれど、それでも笹木野さんが桁外れな才能を持っているから、という理由も大きいはずだ。
そしてある地域では、悪魔も鬼も同列に考えられているんだとか。
笹木野さんは吸血鬼の家系。吸血鬼とは、血を吸う〈鬼〉だ。さらに笹木野さんは、その吸血鬼の一族から見ても飛び抜けて優秀。
ということはつまり。
この魔法に対抗する術を、持っている可能性がある。
『そうじゃな、否定は出来ん。そもそもとして魔法とは力こそすべてという概念が根本にある。相性の悪い属性持ち同士が戦っても、その相性の悪さを覆せるほどの力を持っていれば勝利出来るのじゃ』
レヴィアタンの言葉は、私に届いていなかった。
何かを言っている。
それだけを、ようやく理解することが出来た。
恐怖が少しずつ心に積もっていった。
いや、大丈夫だ。だって笹木野さんはただの吸血鬼。対してこっちは大罪を司る大悪魔。いくら吸血鬼五大勢力の一つの家系の血が流れているからって、その差は大したことではない。私を脅かす程のものでは無い。
私の恐怖心が招いたのか、本当に笹木野さんの力が絶大だったのか、それともその両方か、私はわからなかった。
けれど、起こったことは事実だ。
『…………』
笹木野さんが呪文を唱えた。それは聞き取れないものであったにもかかわらず、私が使ったものとは別物であるということが本能的にわかったけれど、同時に、私が使ったものと『よく似ている呪文』であるということも、本能的にわかった。
十字架の先端を中心に描かれていた波紋がおさまり、十字架がカチカチと震え始めた。そしてその震えは次第に大きくなり、そして、
宙に、ヒビが入った。
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