ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.217 )
- 日時: 2021/07/24 11:57
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: JMwG2Hoo)
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ガシャアン!!
大きな音が辺りにばらまかれ、粉々に砕けた宙の破片は霧散する。
遮るものが何も無くなった十字架は、今度こそ私を貫くために私に向かってきた。
『……!』
呪文を叫ぶけれど、何回も何回も宙の破片が散らばるだけで、もう【吸収】が起こることは無かった。
直線的に、音もなく、巨大な十字架が、私を貫いた。
場所は腹部。もちろん、血が噴き出した。飛び散った自分の血は足や顔といった端の方まで到達するほどの勢いを持っている。噴き出した血のほとんどは、お腹から背中から、どろりと地上に落ちていく。
十字架は、今も降り続け、私の体に穴を開ける。
体に刺さっている部分の十字架から、無数の棘が出てくるのがわかった。それらは肉を刺して血管に潜り込み、血管の中を走る。
喉が燃えるように熱くなり、ゴポゴポと音をたてて血が逆流してきた。血管が破裂したらしい。不快な鉄の味が口の中に溢れ返り、そしてこぼれる。気管にも入り込んでしまったようで、私は咳き込んだ。
「げほっ、げほっ、うぁ……」
不思議と痛みは感じなかった。代わりに、何も感じなかった。体に触れる空気の感触も、空気を切る音も。心做しか、視界も霞んで見えてきた。ただ一つ、じくじくとした感覚が身体中に広がっていた。もしかして、これが『痛み』なのかな。
私、死ぬのかな?
これだけ血を流せば、人は死ぬよね。悪魔と契約したとはいえ、私自身はただの人間なんだから。
やっと、楽になれるのだろうか。誰にも愛されず、必要とされず、何も得られなくて、最後には悪魔とも契約してしまったこんな人生が、やっと終わるのだろうか。いや、楽にはなれないだろうな。私はきっと、地獄に堕ちる。
『何を言うておるのじゃ。其方は死なんぞ?』
え?
『そうじゃな、簡単に言えば、其方は悪魔になったんじゃよ。妾と契約したことによってな。厳密には違うがの。
悪魔とて死んだり消滅したりすることはある。しかし妾のような大悪魔になれば話は別じゃ。死してなお、妾達は蘇る。喜べ人間よ。其方は恐れるべき『死』というものをもう二度と恐れる必要が無いのじゃ。
まあ、痛みはするし動けなくなることはあるがの。じゃがそれも些細なことじゃ』
え?
じゃあ、私はもう、『死ねない』の?
何も手に入れられない私には、『死ぬ』しか残っていなかったのに。悪魔と契約しても、笹木野さんに負けているのに。
…………。
もう、どうでもいいや。もう、どうにでもなれ。
私は全てを諦めて、そっと目を閉じた。
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