ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.218 )
日時: 2021/07/24 23:54
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: JMwG2Hoo)

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『白よ、慈愛を。大罪を犯した罪人に、慈悲の雨を』

 凛とした女性らしい声が、静かに聞こえた。その瞬間、辺りが真っ白になった。十字架は、全てその『白』に溶けるように消える。笹木野さんが、驚いたように目を見開いていた。
 血管を巡っていた棘も消えて、ふっと心が軽くなった。

 空も大地も真っ白になり、学園の姿も見えない。全く別の世界に来たのかと思ったけど、体は落下を続けている。どういうことなんだろう?

『宙を水とし浮の力。命を留める優しき手としてかの者を抱きとめよ』

 ワタシは、かなり地面に近づいていたと思う。今は消えちゃったけど、さっきまで学園の壁や窓なんかが見えていたし。だから、もうじき地面に衝突するんだと思っていた。のに。

 体の落下は、ふわりと緩んだ。まるで大きな手に支えられ、そして抱かれているような暖かな感覚がして、とても心が安らいだ。

 そして、誰かの腕の中へ。

 ……だれ?

 花園さんかなと思ったけど、違うみたい。だって、髪の色も瞳の色も全然違う。両方とも、周りと同じ真っ白だ。それになにより、ワタシは花園さんに向けて殺傷性の高い魔法を放った。だからこそ、笹木野さんはあれほどまでに怒ったのだ。

 いや、違う。これは多分、銀色だ。その人は、月のように冷たい、それでいて優しい光を宿した目をワタシに向けている。何故だかお母さんに守られているような安心感を抱き、強ばっていたワタシの体からは、いつの間にか力が抜けていた。お母さんなんて、知らないのに。

 さっきまでとは全然違う意味合いで、意識が朦朧としてきた。心の中にあった黒いモヤモヤが消えてなくなって、すごく気持ちが楽だ。
 このまま眠ってしまえれば、どれだけ幸せなことだろう。
 このまま死ねたなら……

 …………。

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