ダーク・ファンタジー小説

Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.219 )
日時: 2021/07/25 11:45
名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: JMwG2Hoo)

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 口が上手く回らない。けれど、ワタシは言った。
「ど、うし、て、泣いて、る、の?」

 女性は、白色の肌に光の筋を浮かべていた。そして、ワタシのことを抱きしめる。
 女性の体は冷たかったけど、ワタシの心はぽかぽかした。

「ごめんなさい」

 震える声で、女性が言った。
 どうして謝るの?
「私達の争いに巻き込んでしまって、ごめんなさい」
 あらそい?
「貴女である必要はなかったのに。貴女は平穏に生きられたはずだったのに」
 息を殺して、それでも漏れてしまう女性の泣き声を、ワタシは近くで聞いていた。
「過ちを犯しているということはわかっているの。私は道を間違えた。貴女たちのことを愛せなくなってしまった。治そうと思えば思うほどに虚無感ばかりが増してしまうの。そして私は『また』、私のせいで人が不幸になってしまう」

 ごめんなさい、と、何度も何度も絞り出す。苦しそうで辛そうで、ワタシは聞いていたくなかった。

「大丈夫、ですよ」

 何が大丈夫なのか、ワタシ自身にもよくわからない。けれど、泣き止んで欲しかった。
 女性はワタシから体を離した。けれどワタシを抱いた姿勢はそのままに。女性は膝をつき、地面に座り込んだ。それから、右手をワタシの左頬に当てる。

「真白」

 くしゃくしゃに涙に歪んだ顔をして、女性は言った。

「生きててくれて、ありがとう」

 その言葉を聞いて、ワタシまで涙を流してしまった。
「えっ」
 女性のように綺麗には泣けない。ワタシは顔を涙に塗れさせてぐちゃぐちゃに泣いた。
「こんな世界に生まれても、いままでを生きててくれてありがとう。そして、ごめんなさい。私は『また』犠牲者を出してしまった。許してなんて言わないわ。でも、謝らせて欲しい」
 ふわりと冷たい女性の手が、そっとワタシの涙を拭う。

「ワ、タシ、生きてて、よかった、の?」

 何も無い、空っぽの人生を生きてきた。おばあちゃんもモナもキドも居たけど、仮染めの幸せだとしか感じたことがなかった。本物の『幸せ』を感じたことがなかった。
 本当の家族にも会えなくて、誰かに愛されていたとしても、愛を感じられなくて、誰を恨んだらいいのかわからなくて。

「もちろん。私は愛なんてわからないけれど、それでも私は、貴女が生きてきてくれて嬉しい」

 女性は言葉を続ける。

「せめてもの償いとして、貴女の最期に安らぎを与えます」


『お や す み な さ い』


 その声を最後に、ワタシの耳には何も聞こえなくなった。目の前が白い光で満ち溢れ、次第に身体中の感覚が薄れていく。体がふわふわと浮かぶような錯覚を覚え、

 そして『わたし』は……



     その時に、死んだんだ。

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