ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも…… ( No.22 )
- 日時: 2021/04/03 20:14
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: XURzUbRL)
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カラァン……カラァン……カラァン……
終業を知らせる鐘が鳴る。
『ふー。終わったの?』
リンが言う。精霊であるリンは、こんなに長い時間ひとつの場所に留まり続けるのには慣れていないのだろう。
精霊なのだからこっているはずのない肩をぐるぐると回すリンをながら、私は言った。
「私の家まで遠いから、疲れたら言ってね」
するとリンは、ビックリしたような顔をした。
私が尋ねることを待っていたのだろう。しばし無言の時間が流れた。
しかし、私は面倒くさかったので、なにも訊かなかった。異論がないならそれでいい。
ロッカーへと進む私に、リンは言った。
『ビックリしちゃった。日向、わたしを気遣ってくれてるの?
ずっと冷たかったから、勘違いしてたけど、結構優しいのね』
「文句を言われるとうるさいから。それだけ」
リンはクスクスと笑った。
なに。
そう訊こうとしたけど、もういいや。面倒くさい。
『あれ、それってペガサスのほうきよね。高級品じゃない。そんなの使うの?』
「なんで知ってるの」
リンはキョトンとした。
私は、はあ、とため息を吐き、言った。
「これが高級品だってこと」
ああ、とリンは呟いた。
『仮契約で戻ってきた仲間に聞いたことがあるの。とってもスピードが出て、気持ちが良いって』
「やめた方がいい」
精霊は、世のことを知らない無知な存在。それがこの世界における精霊の立ち位置だ。あまりにもそれに外れていると、この世界から弾き出される恐れがある。
『わかってる』
リンが悲しげに言った。
『みんなそう言うわ。だから、早く他種族と契約を結べってうるさかったの』
リンのような〈アンファン〉は、契約を結び、それが切れた時。精霊は一刻を過ぎると記憶が全て消えてしまう。その意識のなかには、自分が精霊であることと、仲間を仲間だと認識する能力。それだけしか残らない。
『でもわたし、知りたかったの。この世界がなんなのか。契約を結んで、外に出て、もっと多くのことが知りたかったの』
「……ふうん」
悪いけど、リン。
興味ない。
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