ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.224 )
- 日時: 2021/08/03 23:59
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: Z6QTFmvl)
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「くくくっ」
妾は自分の口が笑みに歪むのを堪えきれなかった。どうしてこんなにも分かりやすく表情を変えるのか。独はともかく真子までも。
嗚呼可笑しい。これほど愉快なことがこれまでにあったであろうか、否。あれだけどんな言葉を投げ掛けても眉ひとつ動かさなかった真子が、こんなちっぽけな独のことになると目に見えてわかるほど動揺しておる。
いくら真子とはいえあの済ました態度は如何せん気に食わなかった。一泡吹かせたようで気分が良い。そろそろ此奴らも感情に任せて攻撃を仕掛けてくる頃合であろうし、今日のところは引くとするかの。
そう思い独の頬から手を離したその瞬間に、遠くからおなごの声がした。
「花園君! 救援が来た!」
彼女は、そうじゃ、学園長であったかの? 会うのは久方ぶりじゃ。この間まで顔など忘れておったわ。この器に出会わなければ思い出すこともなかったじゃろうに。
「とにかく引きなさい! 君の力がバレる前に……」
おなごの言葉はそこで切れた。無理もない。近距離に居るとはいえこの大罪の悪魔であるこの妾ですらこの『気』には寒気を覚えた。遠く──目算五十メートル向こうの瓦礫の先に居る彼奴はただの、ではないが人間、に近い存在じゃ。おそらく、多分。彼奴は人間じゃ。この邪悪な気に当てられても不思議ではない。
「……や、だ」
状況を確認するために邪悪な気の根源である真子の様子を見るよりも先に、妾の喉元に真子の手があった。手には全てを吸い込むような混沌の闇に覆われており、妾の首を締め上げようとしているのはむしろそちらだった。
「ぐ……あ……」
しまった。油断した。そうであった、真子とは本来こういう『無敵の怪物』じゃ。いくら力が弱まっているとはいえ真子の敗北を他の何でもない『世界』が認めん。
「こ ろ す」
世界に愛され世界に呪われ、そして世界に囚われた哀れな少女。それが真子じゃ。
真子の瞳はどす黒い闇に染まりきっておった。いや、実際の色は変わっておらんが、そう錯覚してしまう。真子の本来の力である『黒の力』ではない別の黒い炎の形をした具現化された『何か』が真子の体を覆い尽くし、そして潰そうとしている。真子はそれを拒む素振りなど見せずむしろ受け入れ、そして妾を……殺そうとしている。
瞳孔は開いておらず──極限まで細まっている。真子は至って平静じゃ。
嗚呼、そうじゃ。この真子は特別なのじゃ。他者を『虐げる』でもなく『甚振る』でもなく、『苦しめる』ことを知った、特別な。
真子
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