ダーク・ファンタジー小説
- Re: この馬鹿馬鹿しい世界にも……【※注意書をお読みください】 ( No.225 )
- 日時: 2021/08/04 23:01
- 名前: ぶたの丸焼き ◆ytYskFWcig (ID: sLuITfo7)
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「ひ、なた……?」
独は困惑した様子でぼんやりと真子を見つめていた。が、すぐにハッと我に返り、真子の名を叫んだ。
「日向!!」
そして伸ばされた独の手を、真子を包む黒いもやは拒んだ。いや、正確には違う。独の手はもやに取り込まれようとしていた。けれど完全に埋もれる前にパチリと火花のようなものが散って、独の手ともやを引き離すのじゃ。
一瞬だけ驚いたように自分の手を見つめた独であったが、すぐに顔を、そして目を真子に向ける。
「日向、人が来る! 早くここから離れよう!」
物理でその場から引き剥がすことを諦めた独は、言葉で真子を動かすことにしたようじゃ。
しかし残念。真子は独の言葉など聞いておらぬ。やけに冷えた、それでいて殺気に満ち溢れた目は妾を捉えたままピクリとも動かない。妾の首にまとわりついたもやは首を締める力を益々強め、首からはミシミシと音が伝わってきておった。
これはまずい。
本能なのか直感か、どちらなのかは分からぬが、とにかく妾はそう思った。このままでは殺されることはなくともしばらくの間世界から消されてしまう。折角利用のしがいがある器を手に入れたというのに、それも全てがパーになる。それはいただけない。
「か……あ……」
掠れた声が僅かに口から溶けては消える。いっそのこと本来の姿に戻ろうか。まだ器に魂が馴染んでいない状態で戻るのは些か不安ではあるが、まあなんとかなるであろう。万が一だめだったとしても、器の代わりなぞいくらでも用意出来る。
そう思い、妾は魂で念じた。元の姿に戻るように。いまにも身体中に鱗が浮き上がり、そして巨大化し、みるみるうちにこの妾よりも微かに大きな背丈の真子が米粒に変わる──
はずだった。
魔力が、無い。
そんな、まさか! 魔力切れなど有り得ん。此奴ら程ではないにしろ、妾の魔力は底なしに近い。
となると……おそらく……
魔力を、吸われた?
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